振動で電力を生む新素材、出力がこれまでの20倍に蓄電・発電機器

東北大学と東北特殊鋼が、振動で発電する機能を持つ鋼板を開発。身のまわりの生活振動や、工場設備などの微小な振動を利用するIoTセンサー、省電力が課題のEVなどでの利用が期待される。

» 2018年02月19日 09時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 東北大学と東北特殊鋼(宮城県村田町)は、力を加えることによって材料内部の磁化の強さが変化する現象である「逆磁歪効果」により、振動発電機能を有するクラッド鋼板を共同開発したと発表した。

 クラッド鋼板は性質の異なる異種の金属を圧着した鋼板で、今回開発したのは冷間圧延鋼板(SPCC相当)と鉄(Fe)とコバルト(Co)を主成分とし、磁場によって寸法が変化する材料であるFeCo系磁歪材料の冷間圧延板とを熱拡散接合させた。

このクラッド構造によりFeCo磁歪材料単独の場合よりも数倍から20倍以上の振動発電出力が得られ、電磁力学場の数値シミュレーションにより増幅機構解明にも成功したという。この開発により、身のまわりの生活振動や工場設備などの微小な振動を利用するIoTセンサー用電源から、強じんで衝撃に強い材質を生かして、鉄道車両・自動車などの走行振動や風力・水力などを利用する大型のエネルギーハーベスティングへの応用が可能となり、省電力が課題のEV(電気自動車)での利用も期待される。

 新開発のクラッド鋼板は、従来から振動発電素子として知られている圧電素子と比較すると、微小な振動(加速度0.1G、振幅20µm、周波数50Hz)では25倍以上の出力が確認されており、IoTなどの無線センサー用電源としては十分な電力が得られ、破損しにくいという点も特徴となっている。また、冷間圧延鋼板をニッケル板におきかえたクラッド構造にすると、より大きな出力(圧電素子の50倍以上)が得られ、通常の磁歪材料に比べ、磁場による形状の変化量が100倍程度大きな材料の超磁歪材料(Galfenol)に匹敵する発電性能をもつ可能性もあり、調査を進めている。

自動車などの車両を模した台車にクラッド鋼板の小片を用いた振動発電器を載せ、走行振動によりLEDを光らせる実験。写真左が静止状態、右が走行時LED点灯している様子 出典:東北大学

 さらに、圧電材料や超磁歪材料の板を用いた振動発電器で、発電効率を大きくするためによく用いられる、板面方向の伸縮を大きくする平行梁構造(2枚の板を平行に並べ、その両端を異種材に接合した構造)のような複雑な構造を必要とせず、クラッド鋼板の単純な曲げ振動により発電ができることも特徴の1つだ。

 両者はFeCo系磁歪材料の共同開発を行っており、東北特殊鋼は2016年から自社の鋼材工場設備の振動を利用したFeCo系磁歪材料による振動発電器を電源とするIoTセンサーシステム(モーター監視)を試験的に運用している。今回開発したクラッド鋼板による振動発電器を利用することにより、これまで振動が非常に微小なためにセンサーノードが機能しなかった箇所にもシステムを拡大できるようになったという。

 将来の大型化を想定した試験として、クラッド鋼板の小片による振動発電器を、自動車を模した台車に取り付けて走行させる実験では、数mW(ミリワット)以上の出力を確認しており、実際の自動車ではW(ワット)級あるいは路面状態によっては、それ以上の発電量が期待できると考えられるという。

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