ペロブスカイト太陽電池、スズ系で効率7%と「再現性」を両立太陽光

京都大学と大阪大学の研究グループは、高品質で再現性に優れるスズ系ペロブスカイト半導体膜の成膜法を開発。この手法により、光電変換効率が7%を上回るペロブスカイト太陽電池の作製が可能となるという。

» 2018年09月14日 09時00分 公開
[スマートジャパン]

 京都大学と大阪大学らの研究グループは2018年9月6日、溶液を塗布することで均一性が高く高品質なスズ系ペロブスカイト半導体膜を得られる、独自の成膜法を開発したと発表した。この手法によって、再現性が良く、7%を上回る発電効率を示すペロブスカイト太陽電池が作製可能になるという。

 次世代の高効率太陽電池として、ペロブスカイト太陽電池に注目が集まっている。溶液を塗布するだけで製造でき、現在主流のシリコン系の太陽電池より高い変換効率が期待できるためだ。現在の研究では、鉛を原料に含むペロブスカイト太陽電池で20%以上の高い光電変換効率が記録されている。しかし、鉛が及ぼす環境や人体への影響への懸念から、鉛を用いない新たなペロブスカイト材料の開発が強く求められている。

 こうした背景から、鉛ではなくスズを原料に用いるペロブスカイト太陽電池の研究開発が進んでいる。一方で材料中のスズイオンが酸化されやすいなど、性能面や再現性の点が課題となっている。

 今回研究グループは、特に再現性よく高性能太陽電池を得るために、スズ系ペロブスカイト半導体膜の作製手法の開発に注力した。実験ではまず8%程度の光電変換効率が得られるといわれている方法で太陽電池を作製した。しかし、それを用いた太陽電池では光電変換効率が0〜3%にとどまり、試作したペロブスカイト半導体膜を電子顕微鏡で観察したところ、この手法では表面被覆率が悪い膜しか得られないことが分かったという。

 そこで、研究グループは半導体膜が生成される過程を分析。この結果、2つの重要なメカニズムを突き止めた。1つはスズ系ペロブスカイト半導体の場合、基板上に塗布した材料を含む溶液に対し、材料が溶けにくい溶媒(貧溶媒、アンチソルベント)を、高速に回転させた基板へ滴下すると、中間体を経由せずに半導体材料の結晶核がすぐに生成されること。もう1つは、得られた膜をゆっくりと加熱すると、それぞれの結晶核が成長して約120nmの薄い半導体膜が作製できることが分かった。そしてこれらの二つの過程を制御する手法を開発することで、均一な膜が得られるのではないかと推測した。

 まず、基板上に塗った溶液に貧溶媒(材料が融けにくい溶媒)を滴下する際、2つの溶媒がより激しく混ざり合うことでより多くのペロブスカイト材料の結晶核が一気に析出されると推測。滴下する貧溶媒に温めたクロロベンゼンを用いるホットアンチソルベントトリートメント(HAT:Hot Antisolvent Treatment)法を用いて試作を行った。その結果、貧溶媒を65度の温度で滴下すると、全体が急激に混ざり、密度の高い状態で結晶核を生成することが分かった。

 次に、ホットプレート上で加熱し、残った溶媒を飛ばす際に、結晶をできるだけゆっくりと成長させてより大きい結晶を作製するために、一定時間ペトリ皿などで蓋をしながらガラス基板を加熱し、溶媒の蒸気圧を制御しました。条件を詳細に検討した結果、最初の10〜30秒間だけ蓋をして加熱するソルベント・ベイパー・アニーリング(SVA法)により、大きな結晶性のかたまりを持つ均一な半導体膜が作製できることを見出しました。

 これらの二つの手法を組み合わせることで、均一な高品質のペロブスカイト膜を再現性よく作製することに成功。再現性良く7%を超える光電変換効率を示すスズ系ペロブスカイト太陽電池を作製することができるようになった。

スズペロブスカイト半導体の成膜方法と得られる膜表面の形状 出典:京都大学

 研究グループは今回の成果について、スズ系ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けたボトルネックとなっていた「再現性の問題」を解決する大きな一歩であり、今後、この技術をもとに、スズ系ペロブスカイト材料開発およびデバイス構造の改良・開発研究が大きく進み、環境負荷の少ない同電池の研究が活発化すると期待されるとしている。

スズ系ペロブスカイト太陽電池の特性 出典:京都大学

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