第16回 スマートエネルギーWeek 特集

全固体リチウムポリマー電池を高性能化、新たな電解質膜の開発に成功蓄電・発電機器

日本触媒が全固体リチウムポリマー電池用電解質膜の高性能化に成功。作動に電池温度を50℃以上に加温する必要があるといった全固体ポリマー電池の課題を解決できる他、電池性能の高性能化に寄与する成果としている。

» 2020年02月14日 07時30分 公開
[スマートジャパン]

 日本触媒は2020年2月13日、全固体リチウムポリマー電池用電解質膜の高性能化に成功したと発表した。ポリマー電解質を用いた全固体電池は長寿命、高安全性などの特徴を持つが、リチウムイオンの伝導性に乏しいことから、電池温度を50℃以上に加温する必要があった。今回開発した新規電解質膜は、室温でも高いリチウム伝導性を実現でき、電池の作動温度を室温近くまで下げられるなど、用途の拡大に寄与する成果としている。

 既存のリチウムイオン電池は可燃性・自己燃焼性の有機溶媒を用いているため、発火などへの対策が必要になる。そこで、有機電解質を難燃性のリチウムイオン導電性ポリマー電解質に置き換え、リチウムイオン電池を全固体化すること、より高い安全性を確保しようというのが全固体リチウムポリマー電池だ。日本触媒は、ポリエチレンオキシドを主骨格とするリチウムポリマー電池用の固体電解質を開発し、2013年から商業生産を開始している。

全固体リチウムポリマー電池の概要 出典:日本触媒

 一般に、ポリエチレンオキシドのポリマー電解質は、リチウムイオン電池の非水電解液と比較するとイオン伝導度が1桁以上低く、さらにリチウムイオン輸率が0.1〜0.2と低いことから、室温ではリチウムイオンが電解質中を動く速度が非常に遅くなります。そのため、安定した性能を得るためには、電池を50℃以上に加温し、リチウムイオンを動きやすくする必要があった。しかし、これまで検討されてきたポリマー電解質のリチウムイオン輸率を向上させる手法の多くは、イオン伝導度を低下させてしまうため、性能を改善するには至っていないという。

 そこで日本触媒では、独自に開発した新しいイオン伝導のメカニズムを導入し、電解質膜中のリチウムイオンを伝搬しやすくした新規電解質膜を開発した。これは一般的なポリエチレンオキシド系電解質膜と比較すると、同等のイオン伝導度を有しながら、リチウムイオン輸率を5倍以上に高めているという。

 開発した新規電解質膜は、リチウム金属に対しての安定性と、4V級正極活物質でも充放電できる耐酸化還元性を持つ。この技術を用いて作製したラミネート型全固体リチウムポリマー電池は、ポリエチレンオキシド系のポリマー電池と比較して、40℃では2倍以上、25℃では5倍以上の放電特性が得られたとする。これにより従来の全固体ポリマー電池と比較して、充電時間の短縮や、エネルギー密度の向上、電池を加温するための熱源を減らせるなど、多くの改善効果が見込めるとしている。

開発した電解質膜のイオン伝導度とリチウムイオン輸率 出典:日本触媒

 日本触媒では今後、開発した電解質膜を全固体ポリマー電池用の電解質膜として、さらには無機電解質の界面形成材などへの活用も目指し、サンプル出荷を進めて用途開拓を行う方針。なお、今回の研究成果は2020年2月26日〜28日に東京ビッグサイトで開催される「国際二次電池展(「スマートエネルギーWeek 2020」内)」の同社ブースで披露される予定だ。

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