ソーラーシェアリングの成否を分ける「架台選び」、押さえておきたいポイントは?ソーラーシェアリング入門(32)(2/2 ページ)

» 2020年07月13日 07時00分 公開
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可動式ソーラーシェアリング架台の課題とは?

 最後に、太陽光パネルの角度を自由に変えることができる可動式のソーラーシェアリング架台についても触れておきます。日本国内でのソーラーシェアリング普及初期から、可動式の設計はさまざまなパターンが研究されてきました。

 その目的は面積当たりの発電量の最大化や、農地に接する支柱部分の省スペース化、作物に日照が必要な時期の日射量調整など多岐にわたります。手動で季節に応じて太陽光パネルの角度を調整するものから、プログラムによって自動的に太陽を追いかけたり台風に備えたりできるものまでありますが、それらの製品がこれまで普及してこなかった理由と、今後導入を考えるに際しても注意していただきたい点を整理しておきます。

可動式のソーラーシェアリング架台 

 まず、可動式は太陽光パネルを動かすための部品が必要になりますが、この部品点数が膨大であることによるメンテナンスの問題があります。例えば藤棚式架台などで一軸追尾を行うとすれば、太陽光パネルの枚数+αの可動用部品を設置することになりますが、工業製品というのは可動部が増えるほど故障リスクが高まります。太陽光発電が他の再生可能エネルギー発電に対して有利な点の一つが、この可動部が実質的にないということです。風力発電の風車や水力発電の水車、バイオマス発電や地熱発電のタービンに該当する部品が、太陽光発電にはありません。しかし、可動式を採用すれば低圧設備でも数百個の可動部の部品が増加し、その分だけメンテナンスの手間と故障のリスクが増加します。

 次に、部品を継続的に調達できない可能性があるというリスクも課題となります。一軸追尾でも二軸追尾でも、これまで可動式を提案してきているメーカーの製品はほとんどは、自社開発の言うなれば特注品です。藤棚式やアレイ式の架台であれば、破損時の代替品はメーカーが異なっても比較的容易に入手できますが、追尾式の可動部の部品などは代替調達が難しいことが考えられます。

 最後に、台風などで故障した際の修理のリスクです。強風による部品の損傷などで、可動部が動かなくなるというトラブルは私も何度も目にしてきました。そうなると、修理が終わるまで期待されている発電量が得られなくなりますし、台風シーズンは概ね農繁期であり、重機などを入れての作業も困難ですから、売電の機会損失が拡大していきます。

 可動式設備の場合、建設時のコストと可動によって増加する売電収入のバランスで投資が決定されることになりますが、故障による停止が長引けばその期間の売電収入の低下が大きな事業リスクです。重機を入れるような作業は農閑期でなければできませんし、それこそ代替部品が調達できなくなって可動式として使えなくなるリスクもあります。20〜30年にわたって運転する設備として考えたときに、これらの課題をクリアできるかどうかが、今後可動式の架台を利用したソーラーシェアリングが普及するかどうかの分水嶺になると考えます。

 どのような架台方式であれ、まだまだソーラーシェアリングは発展途上の技術ですから、今後ブレイクスルーが起きる可能性は十分にあります。とはいえ、何よりも農作物を安定して生産できるかどうかがソーラーシェアリングにおいて最も重要なポイントですから、その環境を実現できる架台を選ぶようにしましょう。

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