ペロブスカイト太陽電池の実用化を後押し、20年の屋外耐久性の獲得に成功蓄電・発電機器

兵庫県立大学と紀州技研工業らの研究グループが、次世代の太陽光パネルとして期待されるペロブスカイト太陽電池において、世界最長となる屋外環境20年相当の寿命を得ることに成功したと発表。同電池の実用化を大きく後押しする成果だという。

» 2021年11月17日 09時00分 公開
[スマートジャパン]

 兵庫県立大学と紀州技研工業らの研究グループは2021年11月15日、次世代の太陽光パネルとして期待されるペロブスカイト太陽電池において、世界最長という屋外環境20年相当の寿命を得ることに成功したと発表した。炭素電極を備えたペロブスカイト太陽電池の性能が、光照射によって回復するメカニズムを活用したもので、同電池の実用化を大きく後押しする成果だという。

 ペロブスカイト太陽電池は、現在主流のシリコン系の太陽電池と比較し、高い変換効率のポテンシャルと、低い製造コストが期待できるため、次世代の太陽電池として注目されている。シリコン系に対して約300分の1という、薄膜で発電できることから、軽量化も容易で、太陽電池の新たな用途拡大への期待もある。世界中で活発に研究開発が進んでおり、近年は20%近い変換効率を記録する成果も登場するなど、効率面では実用化への道筋がつきはじめているが、耐久性の低さが課題となっていた。

 今回研究グループが開発した、炭素電極を備えるペロブスカイト太陽電池は、あらかじめ多孔質構造の酸化チタン、酸化ジルコニウム、カーボン電極の3層を印刷で形成し、ペロブスカイトインクを下部まで染み込ませ、加熱処理によりペロブスカイト層を結晶化させることで太陽電池として機能させる。

開発したペロブスカイト太陽電池の構造 出典:兵庫県立大学

 この太陽電池に太陽光を照射すると、太陽電池の出力パラメーターである開放電圧と曲線因子(導電性に関係する特性値)が改善するという点だ。この特性により、耐久性を検証する試験において、発電出力が初期値の90%にまで劣化するのに掛かった時間は3260時間を記録した。これは屋外環境で20年の耐久性(寿命)に相当し、シリコン系太陽電池に匹敵し得る耐久性を、ペロブスカイト太陽電池において初めて実証することができたとしている。

 炭素電極を備えたペロブスカイト太陽電池は、真空プロセスを必要とせず、炭素電極は金属電極に比べて安価であること(製造コスト削減)、完全塗布型工程で軽量基板の利用が容易であり、軽量性を確保しやすいこと、主要な材料である炭素電極(グラファイト)とヨウ素の生産量は、日本が世界シェア20〜30%を占めており、高い競争力を期待できるメリットがあるという。

 今回開発した太陽電池の変換効率は12%程度だが、今後、多結晶シリコン太陽電池に匹敵する16%以上のモジュール変換効率を達成することができれば、本格的な実用化が視野に入るという。今後、高耐久性を維持しつつ、変換効率を向上させる技術開発が期待される。

 なお、今回の研究は、戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)によるもので、スイスのソラロニクス社、ドイツのフラウンホーファー研究所なども加わった共同研究チームによる成果。研究内容の詳細は、2021年11月13日(日本時間)に、世界的に権威のある米国のオープンアクセス誌「Cell Reports Physical Science」で公開された。

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