「ソーラーシェアリングはなぜ普及しないのか」という疑問を考えるソーラーシェアリング入門(58)(1/2 ページ)

「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」について解説する本連載。今回は筆者がさまざまな場面でよく聞かれる「ソーラーシェアリングはなぜ普及しないのか」という質問について、改めてその理由を考えてみます。

» 2022年12月19日 07時00分 公開

 ソーラーシェアリングに関する講演・セミナーなどで、必ず聞かれる質問の一つと言えるのが「ソーラーシェアリングはなぜ普及しないのか」です。農業・農村への貢献、再生可能エネルギーの普及拡大、災害対策など、さまざまな社会的利益の存在を伝えれば伝えるほど、「それだけ素晴らしいものがなぜ普及しないのか」という思いを抱くのは当然とも言えます。今回は、この「なぜ」を改めて考えてみたいと思います。

ソーラーシェアリングは普及していないのか?

 前提として「そもそもソーラーシェアリングは普及していないと言えるのか?」という疑問を検証する必要があります。農林水産省から公表されている営農型太陽光発電の許可件数等の推移から見ると、毎年確実に許可件数は増えてきています。しかし、毎年の太陽光発電(非住宅)導入件数と比べてしまえば、令和2年度でもソーラーシェアリングの比率は2%程度でしかありません。国内の太陽光発電事業全体からすると、まだまだ大きく普及しているとは言えないでしょう。

営農型太陽光発電設備の許可件数の推移 出典:農林水産省「営農型太陽光発電設備設置状況等について」より

 一方で、どこまで広がってきたら普及してきたと言えるのかも悩ましいところで、「非住宅用太陽光発電のXX%を占めるようになったら」あるいは「農地のXX%に達したら」というのは線引きが難しいと感じます。とはいえ、現時点では単年度の導入件数/導入量もFIT開始後の累積でも、ごくわずかなシェアを占める程度にとどまっていることも事実です。ですので、まだまだ普及しているとは言えない状況を踏まえ、さらなる普及に向けたハードルとは何なのかを整理してみる必要がありそうです。

ソーラーシェアリングが普及しない理由として考えられること

 ソーラーシェアリングが普及しない理由、あるいは取り組まれない理由は何かと色々な場面で投げかけると、これもまたさまざまな意見が返ってきます。一時転用許可のハードルが高い、設置費用が他の太陽光発電よりも大きい、系統制約が全く解消しない、FITが縮小する中で採算が取れない、金融機関が融資をしてくれない、設備設計と農作物の生育に関する知見が不十分、農業委員会がなかなか認めてくれない、農家が関心を持ってくれない、地域の理解が進まない……などです。

 実際、ソーラーシェアリングをやろうと思っても、農業委員会がかたくなに認めてくれない、金融機関から融資が受けられないといったことは私も経験してきていますし、地権者や地元関係者の理解というのも重要な要素だと思います。

 このあたりについては、何よりも「ソーラーシェアリングの認知度が低い」ことが大きな理由だと思っており、今でも「太陽光パネルの下で農作業が出来るわけがない、農作物が育つわけがない」という定型的な反応が多いのも事実です。同時に、ソーラーシェアリングの不適切な事例が目立ってしまっており、特に地域内の先行事例がそうしたものだと、ソーラーシェアリングに対する前向きな意識を農業委員会や地元関係者から引き出すのにも一苦労します。

 一時転用許可の再許可取得を含む敷居の高さ、設備費、事業収支、設備や作物への知見不足などが金融機関や農業委員会の姿勢につながる部分もあるでしょうし、不適切な事例の存在や設備下での営農に関する先入観が地権者・営農者・地域関係者とのコミュニケーションに影響すると考えられますから、これらを解決して行くにはソーラーシェアリングがどういった取り組みで、何を目指しているのか、各地でどのような特色ある事例が展開されているのかをもっと広く理解していただく必要があります。これを十分に行えていないことが、ソーラーシェアリングの普及が進まない理由の一つであると思います。

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