カーボンニュートラル達成の鍵の一つであり、EVをはじめ今後さらなる普及が見込まれている蓄電池。一方、その製造から廃棄までの環境負荷の管理・低減が今後の課題であり、欧州では独自の規則案も公表している。経済産業省ではこうした動きに対応するため「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」を設立。このほど2022年度に実施した各種施策・事業の報告が行われた。
蓄電池は2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車の電動化や再エネ電源の大量導入を達成するための最重要技術の一つであり、今後、市場の急激な拡大が見込まれている。
一方、その製造・廃棄プロセスにおいては、温室効果ガス(GHG)の大量排出、資源の大量消費・大量廃棄、鉱物の採掘・加工プロセスにおける人権・環境リスクといった課題があり、蓄電池サプライチェーンのサステナビリティの確保が求められている。
欧州委員会は2020年12月にバッテリー規則案を公表し、製造・廃棄時のGHG排出量による規制(カーボンフットプリント規制)、責任ある材料調達(デュー・ディリジェンス)、リサイクルに関する規制等を提案しており、日本の自動車メーカーや蓄電池メーカーにも大きな影響を与えることが予想される。
このため経済産業省は2022年1月に「蓄電池のサステナビリティに関する研究会」を設置し、サステナブルな蓄電池サプライチェーンの構築に向けた検討を行ってきた。第4回研究会では、2022年度に実施された「カーボンフットプリント算定試行事業」や「人権・環境デュー・ディリジェンス試行事業」、「データ連携基盤の検討」の結果に関する報告が行われた。
経済産業省では、研究会での議論を踏まえ、実際のサプライチェーンを遡り、電動車に搭載されている車載用電池パックのカーボンフットプリント(CFP)を算出する試行事業を実施した。試行事業への参加事業者は、自動車OEM(完成車メーカー)、電池メーカー、部素材メーカーなど約50社に上る。
蓄電池のライフサイクル全体を、「1.原材料調達・製造」「2.流通」「3.使用」「4.使用後処理」の4つに分類し、データ収集範囲は1から3までとして、「4使用後処理」は試行事業の対象とせず、事務局で廃棄・リサイクル業者に対してヒアリングを行い、データを集約した。
試行事業では、活動量の取得や算出に必要な情報の交換が可能であるかを検証し、算出が困難な場合には、その課題を報告することとした。
CFP試行事業によって得られた、車載用電池パックのライフサイクル全体のGHG排出量割合は図2のとおりである。サプライチェーン全体を遡ってGHG排出量を算定する都合上、原材料調達段階と製造段階を区別せず、「原材料調達・製造段階」と分類しているが、この段階が全体排出量の75%を占めている。
また、セル製造と電池パック製造におけるGHG排出量の割合(試行事業結果の平均値)は、セル製造では「正極」由来の排出量が6割を占め、電池パック製造では「電池モジュール」由来の排出量が8割を超えている。
なお試行にあたっては、あらかじめ各製造プロセスに対して、一次データ取得プロセスと二次データ利用可能プロセスに分類していたが、ほぼ全ての二次データ利用可能プロセスにおいても一次データを取得できている事業者が多いことが確認された。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.