「COP28」は“進展なし”だったのか? 今後の日本に求められる姿勢を考える「COP28」を通じて考える気候危機への取り組み(後編)(1/2 ページ)

2023年11月末に開催された「COP28」。「具体的な進展は何も見られなかった」と評されることも多いCOP28だが、その中身は一体どのようなものだったのか。本稿ではこのCOP28の内容を振り返るとともに、日本がとるべき今後のアクションについて考察する。

» 2024年01月29日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]

はじめに

 2023年12月13日、閉幕予定を延長してCOP28が閉幕した。合意文書では、「化石燃料からの移行(transition away, 『脱却』とする訳も多いが日本政府の定訳は『移行』)」「再エネを2030年までに世界全体で現状の3倍、省エネ性能を2倍に高める」という内容が盛り込まれるなど、スルタン・アル・ジャベルCOP28議長が「歴史的な合意」と述べる結果となった。

"December 1 - World Climate Action Summit" 出典:UN Climate Change is licensed underCC BY 2.0

 一方で、元欧州復興開発銀行総裁のジャック・アタリ氏が「世界は危機的な状況であるにもかかわらず、今月開かれたCOP28では何の成果も得られなかった」(日本経済新聞 2023年12月27日)と述べたことに代表されるように、具体的な進展は何も見られなかったという見解も多数見られた。

 あくまで筆者の私見だが、日本における一般市民の感想の多くは後者寄りであり、COP28が何らかの具体的で直接的な行動に結びつくと感じることは少なかったのではないかと考えている。もちろん国際的な場での合意は世界の方向性を定める上で重要なものであり、合意文書ではことさら慎重な内容とならざるを得ないことは理解している。しかし、気候変動や異常気象が危機的な段階にあるとさまざまな形で日々警告されている中でも、やっとこの程度の合意しかできないのかと思わずにはいられないのが一般的な感情ではないだろうか。

 化石燃料からの移行や、再エネの増強をCOP28で指摘されるまで必要性を意識しなかった人はほぼいないだろう。気候変動による海面の上昇に対して特に脆弱(ぜいじゃく)である太平洋島しょ国の代表団がCOP28の結果に落胆したと多数報じられたが、これは当然のことであると筆者は感じている。

COP28開幕以降の動き

 そんなCOP28だったが、目に見える動きもあったので振り返りたい。今回、特に筆者がCOP28で着目していたのが、資金拠出の方向性についてであった。干ばつや洪水などの被害を受けた途上国を支援するための「損失と損害」基金の設立がCOP27で合意されていたが、COP28を経てその運用が開始された。このことは1つの大きなステップであることは間違いない。

 具体的なアクションとして議長国のアラブ首長国連邦(UAE)が同基金に1億米ドルを拠出したことを皮切りに各国の拠出が続き、日本も1,000万米ドル拠出の意向を表明した。2023年12月4日時点で合計7億2,500万米ドルが集まったという。2020年までに年間1,000億米ドルを拠出するという約束(2009年COP15におけるコペンハーゲン合意)と比較すると非常に限定的ではあるが、少なくとも一歩を踏み出したことについては歓迎したい。

 一方、公的資金の拠出が限られる中で、議長国UAEが設立を表明した、「ALTERRA(アルテラ)」という基金に注目が集まった。これはCOP28の直接的な議題ではないが、特にグローバルサウスの気候変動対策のための資金を呼び込むことを目指し、UAEが300億米ドルを拠出したものである。米ブラックロック社などの資産運用会社が設立段階からパートナーとして参画しており、2030年までに世界中で2,500億米ドルを動員することを目指すという。途上国が2030年までに気候変動に対処するためには毎年少なくとも2兆4,000億米ドルが必要 といわれる中で、大きな影響力をもたらすものになることは間違いないだろう。

 COP28開幕からの4日間で、合計570億米ドルを超える誓約やコミットメントが発表されたが、アルテラへの拠出はその半分以上を占めている。公的資金の拠出には限界があると言われて久しいが、この巨額の公的資金が、途上国における持続可能な開発のための民間資金流入の呼び水となることに期待したい。また、アルテラに続いて民間資金が流入する気候変動対策資金プラットフォームが、各国のイニシアチブで続々と設立されることも願いたい。

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