米国は、バイオ燃料の1つバイオエタノール(トウモロコシ由来が中心)の導入量が世界一位であるものの、電動化、水素、そのほかのバイオ燃料などの代替ソリューションのいずれにおいても、EUほど急速に脱炭素ソリューションへの移行を義務化する政策は打ち出していない。2024年3月、米国環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)は、2027年〜2032年の自動車の排ガス規制の最終案を公表し、2032年に新車販売の67%をEVにするという従来の目標を最大56%まで引き下げるとし、かつハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHV)の存続も認めるとした。
この変更の背景には、2024年11月に行われる米国大統領選があると見られる。もともとバイデン政権は気候変動対策のメインドライバーとしてEV推進の立場だったが、母体が大きい全米自動車労働組合(UAW)や米自動車大手から急速なEV導入目標の緩和を迫られていた。そこで、そういった声に配慮する形で今回の修正が打ち出された側面があることは十分に考えられる。
また、バイオ燃料についてもEUのRefuelEU Aviationのような導入を義務づけるような政策はない。再生可能燃料基準(RFS:Renewable Fuel Standard)の中でバイオ燃料の供給目標値などが設定されているのみで、SAFについては2030年時点で、米国内の航燃料消費量の約1割に相当する30億ガロン/年とすることを目標としている。
ここまで米国の現状を述べてきたが、大統領選の結果次第で状況が様変わりする可能性があることに留意する必要がある。トランプ前大統領は、パリ協定離脱に加え、化石燃料を重視するなど脱炭素政策とは距離があった。今回の大統領選での公約でも、パリ協定からの再離脱、自動車の排ガス規制の撤廃などを示しており、現在のバイデン政権における環境問題への姿勢とは明らかに異なるものとなるだろう。よって、米国でバイオ燃料関連の投資を検討する企業にとっては、11月に迫った大統領選挙の結果をリスクとしてシナリオを策定し、事業環境への影響を可視化しておくことが求められるだろう。
欧米と並び経済大国である中国では、EV普及のために優遇税制や補助金などでの支援をしてきた。また、水素についても2022年3月に、水素関連の長期計画として初となる水素エネルギー産業中長期計画(2021-2035年)を発表済で、2025年までに燃料電池(FC)V5万台の普及、グリーン水素製造10〜20万トン/年を目指すとし、各主要都市もそれに続いて独自の数字目標を公表している。
また、2021年12月に第14次五カ年計画が公表され、CO2排出原単位を経済全体で18%削減し、エネルギー原単位を13.5%削減させることが目標とされているが、バイオ燃料については具体的な導入目標が示されていないのが現状である。一方で、実は現在バイオエタノールの生産量が米国、ブラジル、EUに次いで中国が世界第四位であることはあまり知られていないかもしれない。原料は主にトウモロコシやコメなどの穀物の第一世代であり、第二世代以降はこれからとなる。また、SAFについても今後導入を促進していくことは打ち出されてはいるものの、EUのような導入量の義務付けといった政策は今のところない。
最後に、第一世代由来のバイオエタノールを多く生産し、バイオエタノール100%車も認められているブラジルでは、「RenovaBio(ヘノバビオ)」プログラムというGHG排出量の削減を目指すバイオ燃料に関する政策が発表されている。バイオエタノールやバイオディーゼルなどのGHG排出量削減に資する燃料を生産・輸入・販売する企業に対してカーボンクレジットを付与する一方、化石燃料を供給する企業にはそのカーボンクレジットの購入義務を負わせるという方策である。
また、ガソリンへのエタノール混合義務比率については、2015年3月16日以降一律27%となっており、長期間据え置かれている。なお、ブラジルは第一世代のバイオエタノール導入時期が世界的に早く、導入量も長年世界トップクラスではあるが、第二世代以降のバイオエタノールについてはまだまだ発展途上である。
以上がEU、米国、中国、ブラジルにおけるバイオ燃料の位置付けや関連政策、将来動向である。これらを今後の注目点とともに図1にまとめる。
ここまでバイオ燃料に対する諸外国のスタンスや取り組みの方向性や、脱炭素エネルギーとしてのバイオ燃料の位置付けについて述べてきた。連載第3回では、他国から得られる示唆をもとに、日本で考えらえれるバイオ燃料ビジネスの動向を考察したい。
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