調整力や供給力のより効率的な調達を目的に導入が検討されている「同時市場」。「同時市場の在り方等に関する検討会」では、10回の会合にわたって制度設計の詳細を議論してきたが、このほどその中間とりまとめが報告された。その内容を解説する。
現在日本では、電力のkWh市場(スポット市場、時間前市場)とΔkW市場(需給調整市場)が分散している市場制度を運用しているが、市場価格の高騰や調整力の調達不足という課題を抱えている。今後の変動性再エネの更なる大量導入を見据え、これら課題に対処するため、kWh市場とΔkW市場を一体化した「同時市場」の導入が検討されている。
同時市場では、発電機特性を踏まえた市場約定ロジック(Three-Part Offer)の構築や、一般送配電事業者による一元的な情報把握及び系統制約を考慮した発電計画の策定などにより、より安定的・効率的な電力需給・系統運用を実現することが期待されている。
資源エネルギー庁と電力広域的運営推進機関は共同事務局として「同時市場の在り方等に関する検討会」をこれまで計10回開催してきたが、この中間とりまとめが報告された。
電力の市場や取引は、中長期的に設備容量(kW)等を確保するための長期脱炭素電源オークションやkWhの相対取引、一般送配電事業者が実需給断面で指令を行う調整力など、様々な時間軸に応じた複数の市場・取引が複層的に存在している。
この中で同時市場は、実需給1週間程度前から実需給までの短期の需給断面において、安定的な電源起動・運用と経済性(メリットオーダー)を追求する枠組みとして検討が行われている。同時市場より前の中長期需給において、発電設備(kW)への投資・維持と燃料(kWh)を確実に確保することも電力の安定供給において極めて重要であるため、同時市場はこれら中長期断面の取引とも接合可能なように制度設計することが求められる。
現時点、主要な電源として運用される火力発電機は、起動費(円/回)や最低出力費用(円/h)、限界費用カーブ(円/kWh)等の費用特性のほか、起動時間等の発電機パラメータが電源ごとに異なるため、kWh単価だけで売買する現在のスポット市場では全体としての効率的な約定に限界があると考えられている。
これに対して同時市場では、Three-Part Offerと呼ばれる、起動費、最低出力費用、限界費用が最経済となるように、系統制約を考慮した上で、電源の起動停止(SCUC)や出力量(SCED)の決定が行われる。
なお、Three-Part Offerの一要素である「限界費用カーブ(marginal cost)」とは、発電機の出力を1kW増加させるときに掛かる追加費用のことであり、米国では、Incremental Energy Offerなどと呼ばれている。ところが、日本の現行制度で「スポット市場の限界費用余剰全量供出」と言ったとき、「コストベース」といった文脈で「限界費用」という用語が使われているため、両者の混同を避けるため、Three-Part Offerの場合は「増分費用カーブ」と呼ぶこととした。以降、本稿でもこれに倣うこととする。
現行制度のkWh市場では、複数の電源を組み合わせて(電源を特定せず)入札を行う「ポートフォリオ入札」が一般的であり、また、地域間連系線の混雑は約定処理に反映されるものの、地内の系統混雑は考慮されない仕組みとなっている。このため、発電事業者等のバランシンググループ(BG)による発電計画をベースとしながらも、インバランスの調整や系統安定性維持のため、一般送配電事業者(系統運用者:TSO)が需給調整市場のみならず余力活用契約を使って、BGの発電機の追加起動停止や出力変更を行っている。BG発電計画とTSO運用の乖離が小さい状態であれば、現行制度でもそれほど問題とはならないものの、今後、再エネ余剰時の出力制御や地内系統混雑への対応が増えると、電源運用が煩雑になり、安定性・効率性の両面から問題が生じることが懸念されている。
これに対して同時市場では、基本的に大規模電源については「電源単位」の入札になるほか、TSOが考慮すべき全体の需給・系統状況等を事前に織り込んだ上で約定処理が行われる。これにより、ゲートクローズ(GC)以前と実需給断面での電源運用・系統運用がより整合的になるように、kWh(供給力)とΔkW(調整力)の取引が可能となると期待されている。
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