時間前市場については、現時点、諸外国においても同時市場方式とする事例はなく、制度設計やシステム設計のハードルが高いと考えられている。時間前同時市場の設計に当たり、入札義務、起動時間の取り扱い、kWh・ΔkWの決済方法やタイミングなど、複数の論点について議論が継続中である。
よって、時間前市場においても同時市場の導入を第一目標としながら、実現性に乏しいと判断される場合は、現行制度と同じくザラバ方式とする。
前日同時市場(kWh市場)では、発電機の費用特性を踏まえたThree-Part情報(起動費、最低出力費用、増分費用カーブ)を元に、kWhとΔkWを同時最適化した電源ラインアップを決定し、シャドウプライス(系統全体で+1kWh出力したときの価格)でkWh価格を算定する。ただし、この価格算定は、起動費や最低出力費用を織り込んだ価格算定に比べると、低くなることが想定されること等を踏まえ、入札価格は、増分費用カーブに一定程度のリスク等(+10%程度)を織り込むことも可能としている。
このリスク等を織り込んでもなお、一部電源については起動費等の取り漏れ(Uplift)が発生し得るため、これを確実に回収できる制度を設けることとする。
またΔkW市場について、現行制度において調整力供出事業者が設定している「機会費用」や「逸失利益」は、同時市場ではThree-Part情報を用いて機械的に算出することが可能となる。これら機会費用・逸失利益をベースに、マルチプライス方式とする案のほか、逸失利益のシングルプライス方式化、調整力のパフォーマンスに応じた報酬を追加する案などについて、今後も検討を行う予定としている。
同時市場への移行について、一定の仮定を元に、2030年頃からの10年評価に換算した費用便益分析(B/C)を行った結果は、6.4〜9.2と大きな肯定評価となった。
また、現時点定量的に評価できない定性的な便益としては、1.卸電力取引所の売り切れによる価格高騰の改善、2.需給調整市場(ΔkW市場)の応札不足の改善、3.非効率的な電源ラインアップの改善、などが挙げられており、いずれの項目も、費用便益分析を安全側にする方向、あるいは市場参加者のメリットにつながるものと考えられる。
同時市場の導入に向けては、FIT制度(FIT特例①等)や容量市場制度等、関連する他制度・他市場への影響を考慮のうえ、検討すべき制度的論点や技術的検証がまだ多く残されている。
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