需給調整市場検討小委員会事務局では、VRE(FIP電源)を需給調整市場またはスポット市場に売り入札し約定した際の収入(対価)を試算し比較を行った。試算の前提条件は、以下の通りである。
卸電力市場価格:9円/kWh (簡略化のため一定額)
ΔkW市場価格:9円 + 0.66 円/ΔkW・h
FIPプレミアム:1円/kWh
非化石価値:0.8円/kWh(直近1年の平均値)
この前提条件に基づき、FIP電源をスポット市場に入札し約定した場合、kWh収入9円/kWhのほかに、FIPプレミアム1円/kWhや非化石価値による収入0.8円/kWhが得られる。
これに対して、需給調整市場で約定した場合、FIP電源(VRE)の限界費用は0円/kWhとみなせるため、スポット市場価格と同額の9円/kWhの逸失利益のほかに、ガイドラインの一定額「0.33円/ΔkW・30分(=0.66円/ΔkW・h)」が得られる。調整力kWh市場の発動の有無は当日の需給状況やメリットオーダー次第であるため、ここでの試算には含めていない。
以上より表2のように、通常の需給バランス時の比較では、スポット市場での取り引きのほうが、需給調整市場よりも収入が多い試算結果となった。現在、非化石証書の最低価格の見直しも検討されており、この結果次第では、スポット市場の優位性が一層高まることも予想される。
ただしこの試算比較では、需給調整市場アセスメント不適合のペナルティ支払いや、FIP電源のインバランス料金支払いは考慮しておらず、総合収支としてどちらが優位であるかは、さらなる検討が求められる。
次に、優先給電ルールによる再エネ出力制御が発生する断面(スポット価格0.01円/kWh)では、FIP電源はFIPプレミアムがゼロとなり、さらに自社電源が出力制御される場合、非化石価値による収入もゼロとなる。
他方、需給調整市場では、出力制御断面であってもΔkW約定価格を得ることができるため、FIP電源の収入は需給調整市場のほうが大きいという試算結果となった。
以上の試算により、通常時はFIP電源が需給調整市場に入札する経済的なインセンティブは乏しい反面、再エネ余剰による出力制御発生時には、より大きな収入が得られる可能性があることが分かった。
ただし、系統全体での出力制御の有無は事前に分かるものの、出力制御は輪番で行われるため、自社FIP電源が制御されるか否かは事前には分からない。スポット市場は前日10時が入札締切、需給調整市場は前日14時が入札締切(2026年度以降)であり、出力制御指示は前日17時以降に行われるため、出力制御が分かった時点で入札すべき市場を変更することは出来ないということになる。
今後は、出力制御指示の予見性を高めるなどにより、VRE(FIP電源)の調整力の活用に向けた環境整備が期待される。
「同時市場」における変動性再エネ電源の取り扱い――入札制度の方向性と今後の課題
太陽光&蓄電池ビジネスに変化の兆し 2025年度から始まる注目の新制度
導入検討が進む「同時市場」――揚水発電・蓄電池・DRの取り扱いの方向性Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
人気記事トップ10