秋田市の陸上風力発電所で、風車の羽根が落下する事故が発生した。再生可能エネルギーの主力電源化が進む中で、安全性に対する信頼が揺らいでいる。2025年6月18日、経済産業省は電力安全小委員会において事故の詳細を公表。安全対策上の課題が浮き彫りになった。
2025年5月、秋田県秋田市新屋町にある「新屋浜風力発電所」※で、風車の羽根(ブレード)が地上に落下するという事故が発生した。この件について、経済産業省は6月18日、「産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会 電気設備自然災害等対策ワーキンググループ(第23回)」で詳細な報告を行った。風力発電設備の信頼性を揺るがしかねない重大な事案として、点検体制や制度の見直しを求める声が相次いだ。
※事業会社:さくら風力(親会社:新エネルギー技術研究所)、メンテナンス委託先:日立パワーソリューションズ
事故が起きたのは5月2日午前。地上約80mに設置されていたブレードの1枚が、付け根近くから損壊(折損)し、地面に落下した。落下したブレードから1mほどの場所に男性が倒れているのが発見され、その後、死亡が確認された。警察によると、この男性は、散歩中に現場を通りかかった一般市民(81歳)であったという。
新屋浜風力発電所は、新屋海浜公園内に設置された風車1基からなる発電所。事故報告書によると、破損した風車の破片は風下約250mにわたって、公園のあちこちに飛散していたという。
事故当時、秋田市には強風注意報が発令されていたが、最大瞬間風速は21m/sほどで、極端に強い風は観測されていなかった。気象庁の解析では、東北上空に等圧線の間隔が狭まり、強風が吹きやすい状態にあったとされるが、降雨や落雷は確認されていない。
ブレードが破損した風車本体は独ENERCON社製のE82型で、定格出力は1990kW。ブレードは全長39mという巨大なもので、主要素材はGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)。竣工は2009年11月で、運転開始からすでに15年が経過していた。
ブレード破損物の現地調査の結果として、CFRP(カーボン繊維強化プラスチック)で製造されたスパーキャップ部に構造破損が認められた。また、中間レセプター(落雷対策部品)があったダウンコンダクター部付近に焦げ跡が発見された。これらが事故に関与していたかは、今後の調査で確認される。
定期点検については、毎月1回ブレードの外観チェックを実施していた。さらに、5月、9月、11月には、望遠カメラで外観を目視点検するとともに、ブレード内部に人が入って確認作業を行っていた。その結果、過去1年のブレード点検において、異常は検出されなかったという。
一方で、風車全体としては以下のような不具合対応が記録されている。
いずれも点検・修理後に動作確認を実施し、運転に問題がないことを確認していたとされる。
※1.Blade load control:ブレードの歪み(ブレードにかかる負荷)のこと。センサー交換は歪みセンサーを交換実施
※2.Generator air gap monitoring Sensor:発電機の回転子ー固定子間の隙間を監視するセンサーのこと
過去の不具合対応が、今回の事故に関係しているかについても、今後の調査に委ねられる。現時点では、事故の状況が明らかになっただけで、原因の特定までには至っていない。経済産業省主導のもと、速やかな究明が求められるところだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.