一般的に、地域間連系線を増強することにより、広域的な電力取引が拡大することで発電に係る燃料費やCO2対策コストが低減する(広域メリットオーダー効果)。費用便益評価では、系統増強の有無(with/without)の全国メリットオーダーシミュレーションを行い、電源の起動費を含めた総発電コスト(燃料費+CO2対策コスト)の差分により、便益を算定している。
この便益は、どのような燃料費+CO2対策コストを想定するか次第で大きく変わり得るものであり、今回の分析では、最新の発電コスト検証WG報告書を基礎としている。これにより、前回の試算よりも相対的に安価となったLNGは、起動や出力変化速度が速いため、広域的な経済差し替えが起こりやすくなり、便益が大きくなる結果となった。
なお、燃料費及びCO2対策コストはいずれも、低下/高騰の幅をもったケースの中で評価している。
アデカシーとは、電力システムにおける供給信頼度を評価する指標の一つであり、需要に対する適切な供給力(十分な電源予備力)および送電容量(送電余力)が確保されることと定義される。
一般的に、地域間連系線を増強することにより、広域的に供給力を活用できるようになるため、「①予備力(供給力)を低減できる効果」と、「②停電量の期待値(EUE)が低減する効果」の2つが、アデカシー向上による便益として評価される(金額インパクトが大きいのは②であるため、本稿では①の説明を割愛する)。
EUEには、表2のように、「供給計画の取りまとめにおける年間EUE」と「容量市場・供給計画における目標停電量」の2つがあり、最新の2025年度供給計画では、九州エリアの年間EUEは目標停電量(0.009kWh/kW・年)を大きく超過する結果となっている。
連系線の運用は長期にわたるため、アデカシー便益を算定する際に基準とする供給信頼度としては、「供給計画ケース」と「目標停電量ケース」の双方を参照し、両ケースのアデカシー便益の幅で費用便益を評価することとした。
EUE(停電量期待値)に、停電回避のための支払意思額単価(過去の調査により、3,050〜5,890円/kWh)を乗じることにより、停電コストが算定される。連系線を増強することにより、EUEが低下し、停電コストも減少するが、この停電コスト減少分が、アデカシー向上便益(停電コストベース)として評価される。
表3のように、「目標停電量ケース」では元々EUEが小さい(停電コストも小さい)ため、連系線増強の便益も小さいが、「供給計画ケース」ではその逆に便益が大きく算定される。
ただし、10年以上も供給力が不足したまま(EUEが大きいまま)放置することも現実的ではないため、長期的にはこの幅のどこかに落ち着くものと考えられる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
人気記事トップ10