鉛フリーのスズペロブスカイト太陽電池の普及に貢献 新しい塗布成膜技術を開発太陽光

京都大学の研究グループは鉛を使わない高品質なスズペロブスカイト半導体薄膜を作製するための、汎用性の高い塗布成膜法を開発したと発表した。

» 2025年10月20日 08時00分 公開
[スマートジャパン]

 京都大学の研究グループは2025年9月、高品質なスズペロブスカイト半導体薄膜を作製するための、汎用性の高い塗布成膜法を開発したと発表した。鉛を使わない環境負荷の低いペロブスカイト太陽電池の普及に貢献する成果だという。

 ペロブスカイト太陽電池は、塗布プロセスで作製できる次世代太陽電池として注目されている。しかし、従来の高効率ペロブスカイト半導体材料には鉛(Pb)が含まれており、環境負荷の観点から鉛フリー材料の開発が求められている。スズ(Sn)を用いたペロブスカイト半導体は有望な代替候補材料だが、光電変換効率は鉛系よりも低く、作製できるセルの大きさも1cm2以下に限られていた。

 その要因の一つとして、スズペロブスカイトと鉛ペロブスカイトの結晶化メカニズムの違いが挙げられる。ペロブスカイトの薄膜は通常、スピンコート中にペロブスカイトを溶かさない溶媒(アンチソルベント)を滴下して作製する。この過程において、鉛ペロブスカイトは溶媒と錯体を形成した中間相を経由して結晶化する場合が多いが、スズペロブスカイトは前駆体溶液から直接結晶化する。そのため、ピンホールのないスズペロブスカイト膜を得るためには、それぞれのペロブスカイト組成に合わせて、アンチソルベントの種類・使用量・温度・滴下のタイミングといった複雑な条件を厳密に最適化する必要があった。さらに、基板の濡れ性の影響を受けやすく、鉛系で用いられる疎水性の単分子正孔回収層の上では、均一で高性能なスズペロブスカイトの薄膜の作製は困難という課題がある。

 研究グループはこうした課題に対し、前駆体インクの塗布後の乾燥過程で、非晶質の中間相を経由してスズペロブスカイト薄膜を形成する「結晶成長制御剤を用いた真空乾燥法(vacuum-quenching with crystal growth regulator; V-CGR 法)」を開発した。この手法では、スズイオンに強い配位力をもつイミダゾール誘導体(1-vinylimidazole)をペロブスカイトの結晶成長制御剤として前駆体溶液に添加し、アンチソルベント滴下の代わりに真空乾燥により溶媒を除去する。これにより、スズペロブスカイト微結晶の周囲をSnI2(1-vinylimidazole)錯体を含む非晶質の固体がおおう平坦な中間体膜が形成され、その後の加熱過程においてイミダゾール誘導体が脱離・放出されることで、緻密で均一なスズペロブスカイト薄膜が形成できるという。

従来のアンチソルベント法と開発した成膜法の比較図 出典:京都大学

 中間相を経由するこの成膜法は、従来法と比べ基板の濡れ性の影響を受けにくいため、疎水性の高い単分子膜材料(MeO-2PACzや2PACz)上にも緻密で均一なスズペロブスカイト半導体膜を作製できるメリットがある。また、酸化性のあるジメチルスルホキシド(DMSO)を溶媒として用いないことにより、スズペロブスカイト太陽電池デバイスの熱安定性も大幅に向上したという。さらに、アンチソルベントを用いない本手法では大面積のスズペロブスカイト薄膜の作製が可能であり、デバイス面積21.6cm2の7段モジュールの作製にも成功した。

開発した成膜法の特徴:(a) 疎水性単分子膜上に成膜可能/(b)DMSOフリー化により熱安定性が向上/(c) 大面積塗工に応用が可能 出典:京都大学

 この成膜法は、下地の種類やペロブスカイトの組成に依らず広く適用可能で、汎用性の高い手法であり、今後、スズペロブスカイト半導体を用いた鉛フリー型の機能性ペロブスカイトデバイスの開発加速に貢献できるとしている。また、ダイコーターを用いた大面積塗工にも適用可能な手法であり、ペロブスカイト薄膜の工業生産に展開でき、実用化にも直結する成膜技術として期待されるとしている。

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