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大規模共同利用型証券システムの移行プロジェクト(後編)ITソリューションフロンティア:システム

» 2004年06月01日 00時59分 公開
[田巻仁志、岩田光代,野村総合研究所]

システム移行の実際

前編より続く)

(2)移行フェーズ1

 THE STARが従来のSTARシステムと大きく違う点のひとつに、専用端末から汎用PCへの端末機の切り替えがある。利用現場から見るとこれは大きな変化である。従来の専用端末のオペレーションはシンプルで、メニューに従ってデータを入力するだけなので、誰でも簡単に利用することができる。これに対して汎用PCはそれなりの情報リテラシーを必要とする。

 そこで、利用者の負荷を軽減し移行の混乱を避けるために、画面は旧システムに類似させた。システム面でも、変化が少なく機能的にもわかりやすい、注文入力などのフロント系のアプリケーションを先行的にスタートさせた。

 操作研修も、研修会場を常設し、利用各社を3つのグループに分けて集中的に行った。休祭日も開催し、全国から研修に参加した各社の担当者の数は延べ2,000人強にのぼった。

(3)移行フェーズ2

 フェーズ2では、全面的なシステムの切り替えが始まり、業務が大幅に変更となる。新たに実現される業務を理解するためには、十分な業務運用研修が必要である。フェーズ1と同様に利用各社を3つのグループに分けて研修が行われた。実際の利用者が何千人にも及ぶため、各社の本社部門・支店からインストラクターを選定してもらい、インストラクターに対する集合研修を行った。この研修は東京と大阪に常設した研修センターで行われ、各インストラクターの所属する組織、営業店、本社機構など業務の違いに応じて異なった内容の研修が行われた。それぞれ1週間に及ぶ集中研修で、フェーズ2全体で1,300 人弱のインストラクターが参加した。また各インストラクターが各社内で行う研修を支援するため、オンラインサイトとヘルプデスクを開設した。

 さらに、実際に画面を見ながら操作手順をシミュレートできる研修用CD‐ROMが各社に配布された(図3参照)。このコンテンツは各社のイントラネット上でも公開され、利用者が随時参照できる環境も整備された。また、各社内での自部署の端末でも本番と同様のオペレーションができる環境を特別に構築し、研修結果の確認や、集合研修に参加していない担当者に対する社内研修に利用している。

図3

移行プロジェクトの成功要因

 多くの証券会社が参加する共同システムの全面切り替えという環境は、参加者が何千人にも及んでいる。すべての人が、新システムに基づく業務と業務遂行のためのシステム操作を理解しなければ、システムはうまく動かない。手作業で行っていた業務を単純にシステム化する時代では、システム操作の理解はそれほど困難ではない。しかし業務そのものの再構築をともなう場合は単純ではない。今回の移行プロジェクトの成功要因として最も大きいのは、利用者である各証券会社の理解・協力と、各社のインストラクターの献身的な努力・協力である。これなくしては、どんなに研修を行ったとしても効果は出ない。利用部門と研修部門とシステム部門の緊密な共同作業が行われたということもできる。また、第1グループが結果としてモニターの役割を果たし、第2、第3グループになるにつれて講師の説明もわかりやすいものになっていった。

 2つ目の成功要因は、環境整備の一環として常設した研修センターである。いつでも自由に確認したり、研修できる環境がなければ、利用者は不十分な理解のままでシステム開始日を迎えざるを得なかったに違いない。

 3つ目は、経験とノウハウに裏付けられた的確な標準業務システムに基づいて、端末の操作および業務運用が研修によって確実に理解されたことである。そのことが、各社がそれぞれ目指す異なった業務システムを、的確に理解することにつながったと思われる。最後に、3段階のプロセスによる移行が、現場の負荷を軽減し、業務再構築をスムーズに行うために役立ったと言える。

 システムの再構築では、システムマネジメントや採用された技術などが話題となることが多い。しかし、現場の利用者が戸惑いなく業務運用ができてはじめて、システムが成功したと言うことができるのである。

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