「頑張りたい」「疲れたからやめたい」の葛藤はなぜ起こる?「アドラー心理学」的処世術(2/2 ページ)

» 2008年08月04日 14時07分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]
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転ぶと泣いて親の気を引く日本の子供、泣かずに自分で起き上がる米国の子供

 こんなものもあります。

 米国に4年半住んでいて気付いたことですが、米国では、子供が転んだ時、親がパッと見て大丈夫だと思ったら、親は子供に「カモーン!」って言うだけなんですね。そうすると、子供はちゃんと元気に立って歩いていくんです。

 一方、大抵の日本人は、子供が転ぶと駆け寄って「○○ちゃん、大丈夫!?」と慰めますね。子供は転んだ瞬間、親の顔をパッと見ます。そして、親が「○○ちゃん、大丈夫!?」と言った瞬間、「わーん!」と泣き出すんです。子供は、ここは泣いて気を引く場面か、泣いてもダメかをちゃんと見ているんです。

 この話をすると、今まで散々「大丈夫!?」とやっていた親が、「そうか。これからは“カモーン!”にしよう」と思い立ちます。そうすると、どうなると思いますか? 子供はもっと泣くんです。なぜなら、その子は泣くことで親の気を引けると学んでいるので、「泣き方が足りないんだ」と思うわけです。最初から気を引けなかったら、子供はあまり泣きません。

「頑張りたい」「やめよう」――自分同士が戦っている?

 アドラー心理学の理論の3つ目は、自分の中に矛盾はないと考える「全体論(Holism)」です。より理解しやすくするために、反対の考え方「要素還元説」から説明しましょう。

 「要素還元説」とは、簡単に言えば「分かっちゃいるけどやめられない」といった概念です。「自分の中の良い自分と悪い自分が戦っている」「頑張りたい自分と、疲れ果てた自分と、冷めた自分がいて戦っている」という発想は、すべて要素還元説です。

アクセルとブレーキ、1つ1つは反対の役割でも……

 ところが、アドラー心理学ではそうは考えません。「もうちょっと頑張りたいんだけど、身体がキツい」という考え方は、実は身体の調子に合わせた、ちょうどいい頑張り具合だと考えます。車で言えば、アクセルとブレーキみたいなものです。アクセルとブレーキは逆のことをやっていますが、対立はしていません。実はちょうどいいスピードを保っています。

 あまりにもアクセルをふかし過ぎたりブレーキを踏み過ぎたりした時は、カウンセリングで再調節した方がいいです。しかし、「本当はやりたいけど、できないんですよ」というのは、実は「やりたくない」ということなんです。

 よく、みんなで飲みに行こうよ、という時に、「すごく行きたいんですけど、でもちょっと……」と言って、断ることがありますね。行きたくないと言うと角が立つから、こう言っているんです。これは必ずしも悪いわけではありません。誘われたのに「いや、アンタたちと行っても楽しそうじゃないので行かないです」なんて言うのは、正直かもしれないけれど角が立つ。「行きたいけど行けない」という方がいいですね。

矛盾して見える3人の自分は、バランスよく自分を支えてくれている

 例えば、“頑張りたい自分”は、もっと勉強して、もっと自分の会社で数字を上げたい。もう1人の“疲れ果てた自分”は、「そんなに頑張らなくていいよ。給料は変わらないしさ。もう少しゆっくりやろうよ」とささやく。さらにもう1人の“冷めた自分”は、「何対立してるんだよ。バカじゃん」と、自分のことを冷めた目で見ています。3人の自分が対立しているように見えますね。

 実際の私のセッションでは、頑張りたい自分の席、疲れ果てた自分の席、冷めた自分の席、というようにイスを3つ用意して、席を移動しながら、その立場の自分になって会話をしていきます。

 例えば、頑張りたい自分は、「やったらやっただけ業績出るんだからやろうよ」と言う。席を移って、疲れた自分が、「もうやりすぎだよ、休もうよ」と。そして冷めた自分の席に座って、「そんなことをグダグダ言い合っている暇があったら、ゲームでもして気を抜けよ」みたいに対応する。一見すると3者は対立していますが、やりとりを端から見ていると、こっけいに感じられるんですよ。

 そして最後に、あえて、この3者が自分を応援してくれているとしたら、何と言ってくれると思うかと聞いていくと、頑張っている自分は「自分の思いを大事にする自分」というような意味合いになります。疲れている自分は「身体を大事にする自分」、そして冷めた自分は「全体を見ようとしている自分」や「バランスを取ろうとしている自分」といった具合です。

 内側では対立して矛盾しているようでも、いったん外側に出して端から見てみると、実は対立していないのです。思いを大事にする自分、身体を大事にする自分、全体を大事にする自分、と書き換えた瞬間に、実はみんな自分を支えてくれていることが分かります。


 次回は「現象学」について見ていきます。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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