「排除されるべきは喫煙者じゃない、煙だ」――スウェーデン発、“扉のない”分煙キャビンを見てきた

スウェーデン生まれの「キャビンユニット」は、「タバコを吸っている人と吸わない人が同じ部屋にいられる」という触れ込みの分煙システム。開発、レンタル販売を行うスモークフリーシステムズのオフィスで実物を見てきた。

» 2009年03月10日 21時35分 公開
[杉本吏,ITmedia]

 普段タバコを吸わないあなたは、オフィスでこんな経験をしたことはないだろうか。

 「課長、お電話です……あれ、またタバコか。まったく、すぐ席を離れちゃうんだから……」

 あるいは、こんな風に考えたことがあるかもしれない。「タバコを吸う人は、喫煙室で一体どんな話をしてるんだろう。『ここだけの話だけどさ』なんて具合に、こっそり秘密の話をしてたりして。なんだか気になるなあ……」

 一方、タバコを吸う人は吸う人で、「喫煙室って席から遠いんだよなあ」「喫煙者は近年肩身が狭くなるばかりで……」といった不満を抱えている人も少なくないだろう。

 職場環境向上のため、禁煙/分煙ソリューションの整備が当たり前になってきた現在でも、依然として喫煙者、非喫煙者ともにオフィスの“喫煙事情”に不満を感じている人は数多い。タバコを吸わない筆者もそのうちの1人で、「喫煙室での雑談には加わってみたいけれど、吸いたくもない煙を吸わされるのはゴメンだし……」なんて考えていた。

 そんな折、スウェーデン生まれの分煙システム「キャビンユニット」の噂を聞いた。なんでも、「タバコを吸っている人と吸わない人が同じ部屋にいられる」空気清浄システムらしい。これは気になる――というわけで、さっそく東京・六本木のスウェーデン大使館で実物を見てきた。


タバコを吸っている人の真横に立っても「くさくない」

 スウェーデン大使館ビル内にオフィスを構えるスモークフリーシステムズは、オフィス向け分煙システムを開発、レンタル販売するスウェーデン発の企業。オフィスに足を踏み入れると真っ先に目に飛び込んできたのは、クリアパネルで囲まれた円筒形のスペース――これが「キャビンユニット」だ。一見すると大き目の電話ボックス、または小さめのエレベータボックスくらいの大きさに思える。近づいてよく見ると、扉が付いていない。

設置に必要なスペースは2畳ほど。写真の製品はセミオープンタイプだが、パネルの開いた部分が大きいオープンタイプも用意する

 喫煙者はこのキャビンユニットの中に入ってタバコを吸う。キャビン内の手前が喫煙スペースで、小さなテーブルと備え付けの灰皿兼吸いがら入れがある。写真のキャビンユニットは6人用で、欧州ではサイズや形の異なるさまざまなモデルが販売されているという。

スモークフリーシステムズのヨコブ・ラウリン氏

 スモークフリーシステムズ日本支社の代表でカントリーマネージャーを務めるヨコブ・ラウリン氏に、キャビンユニットの中に入って仕組みを解説してもらった。

 「この中でタバコを吸うと、煙が奥のグレーのパネル裏側に吸いこまれる。そこでフィルターを通して有害物質を取り除き、背面から排出される」。ポイントは、煙が周りの空気に拡散してしまう前に吸収されること。「一度空気中に煙が広がってしまうと、有害物質を取り除くのはほぼ不可能」だからだ。キャビンユニットでフィルターを通し排出された煙は、周囲の空気よりも有害物質が少ないほどだという。

 実際に筆者も、喫煙者2人がタバコを吸っているキャビンユニットの中に入ってみたが、周囲の空気からはほとんどタバコのにおいがしなかった。通常の喫煙室のように煙がこもらないため、衣服にタバコのにおいが付くこともない。また、外に煙が流れ出る心配がないため、扉が付いていないというわけだ。

 吸い終わったタバコは、テーブル上に備え付けられた吸いがら入れに捨てる。約9000本のタバコが捨てられる容量で、これは1日10本弱のタバコを吸う喫煙者が20〜25人いるオフィスで使用すると、3カ月ほど持つ計算だ。

(左)灰皿兼吸いがら入れ。耐火設計がなされており、吸いがらはパイプを通って下に落ちる。煙が逆流するのを防ぐ弁が付いた構造だ。(右)天井には人を感知するセンサーが付いており、利用者が誰もいないと自動で省エネモードに切り替わる

オフィスフロアに設置可能、受動喫煙も避けられる

タバコの煙は拡散する前にフィルターに吸いこまれる

 キャビンユニットのメリットはいくつか考えられる。

 まずは設置スペースを取らない点。2畳ほどのスペースさえあれば設置できるため、空きスペースを活用してオフィス内に喫煙スペースを用意できるのだ。喫煙者はわざわざ遠くの喫煙室に足を運ぶ必要がない。また非喫煙者は、喫煙者に用があってもすぐに声をかけられる。

 キャビンユニット内に煙が充満しない点も重要だ。通常の喫煙室は、扉を開けた瞬間にきついタバコのにおいを感じるはず。キャビンユニットでは、既に述べたように、衣服や髪の毛にタバコのにおいが付くことがない。また、喫煙者が副流煙を吸うおそれがないため、受動喫煙を避けられる効果もある。

 扉が付いていないオープン型のため、喫煙者と外の非喫煙者がお互いの顔を見ながらコミュニケーションが可能な点もメリットだ。「煙がもれないため、例えばキャビンユニットのすぐ近くにまで妊婦が近づいても問題ない」(ヨコブ・ラウリン氏)

 導入の際には、スモークフリーシステムズが、導入企業の社員数、喫煙者数、オフィスの間取りなどさまざまな条件に基づいて、設置台数や設置個所をコンサルティングする。6人用のユニットキャビン1台で20〜25人程度の喫煙者をカバーでき、3年契約で価格は1カ月あたり8万円〜9万5000円程度(キャビンユニットはレンタルで、定期点検などの維持費を含む)。


 キャビンユニットは現在、スウェーデンをはじめドイツ、フランス、オランダなど欧州11カ国の2000社以上が導入し、導入台数は5000台を超えるという。

 「キャビンユニットは喫煙者にも非喫煙者にもメリットがあるけれど、基本的には“ノンスモーカープロテクション”、吸わない人たちを守ろうというコンセプトの製品」(ヨコブ・ラウリン氏)。ただし、そのために喫煙者を追い出したり、居場所をなくすようなやり方ではうまくいかないという。

 「キャビンユニットは、決して喫煙者を積極的に支援しようというシステムではない。ただ、誰もが快適に過ごせるオフィス空間を考えるのなら、排除されるべきは喫煙者じゃない、煙なんだ」

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