当時のダイムラーは、ドライバーをとことん信用しない。エンジニアは、当然オーナードライバーよりクルマに対する高い知見を持っているので、それらを総動員して、ドライバーのやらかしそうなミスに予め先手を打っているのだ。
日中トランクを開けて長時間作業することがある。そういう時、バッテリー上がりの防止のために、トランクの内照灯の脇辺りに付いたスイッチを操作して照明をオフにする。作業が終わり、内照灯のスイッチを戻せば良いが、まあ大抵は忘れる。そもそもスイッチを切ったということは外が明るい昼間の作業だからだ。そして次にスイッチが切れていることに気付くのは、おそらく暗い場所でトランクを開けるような場面で、そんなことになるのはおそらくトラブルが起きている可能性が高い時である。
そこでトランクの灯りが点かない。そこで内照灯とスイッチの位置を正確に記憶している人などいまい。暗闇の中で手探りでスイッチを探すハメになる。いまならスマホがあるから良いが、当時は懐中電灯でもなければ、あとはライターの火くらいしか頼れるものがなかった。
ダイムラーはなんとそのスイッチを配線を引き回してまで、トランクリッドの縁に移動した。ボールペンの軸くらいの太さの棒がストライカーの隣あたりの縁から生えており、内照灯を消すにはその棒をポチッと引っぱる。棒は指で押すとばね仕掛けで簡単に引っ込むようになっているので、トランクを閉めると、リッドと敷居に挟まれて押し込まれ、内照灯のスイッチは見事デフォルトの位置に戻るのだ。これはたまげた。
長くなったついでにもうひとつ言えば、ワゴンのリヤワイパーは上がる時にウォッシャーを吹くが、下がる時にはウォッシャーを吹かない。もうこういう細かいことがあっちにもこっちにもある。
そして本当にスゴいのは、それらをひとつもアピールしないことだ。当たり前だと思っているからなのか、説明が面倒臭いからなのかわからないけれど、そういうスゴいことをやって黙っているのである。そうすると筆者のようなヤツが驚愕(きょうがく)して、何十年も経ってからでもこうやって書く。「あいつら思想的に違う。スゴい」一度そういう信者的ゾーンに入ってしまうと、ある種の盲目である。たたみかけられたもので、彼らのやることには全て意味があると信じてしまうわけだ。
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