「ネット金融2.0」は禁じ手かWeb2.0型金融ビジネスは成り立つか

Web2.0という、ネットの新技術を活用したサービスを採用することでネット金融界に異業種参入を果たしたGMOインターネット証券。だが、現状ではそれはやや危険な賭けとも見られている。というのは、金融庁の裁量次第で「法」に抵触する恐れがあるからだ。果たして、「ネット金融2.0」は禁じ手なのだろうか。

» 2006年07月20日 08時00分 公開
[アイティセレクト編集部,アイティセレクト]

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 証券会社という肩書きを持って生まれ、金融ビジネスを営み始めたGMOインターネット証券。その実は、ネット企業顔負けの最新技術を駆使したビジネスモデルによる飛躍と成功を目指す、「新人類」的な金融会社である。

 ところが、専門家からは、そんなビジネスモデルに「レッドカード」が与えられる可能性を指摘する声があがっている。

 「自信を持って言えるのは、Web2.0的なものは本質的に金融業界では使えないということ。なぜか。それは、金融は最たる規制業種だからだ」(金融業界に詳しいM氏)

 金融は典型的な規制業種。つまり、官僚(金融庁)の裁量次第で「クロ」にも「シロ」にもなる。そういった「判断基準がブレる」ような分野では、ネット企業家の思想、Web2.0的な発想といったものは受け入れられない――というのである。具体的には、API(※1)の公開で一般個人のサイトやブログに取引ツールが張られるようなことが自然発生的に起き、そこから直接、証券取引所に株式売買が発注できるようになるのは「アウト」(M氏)ということである。なぜなら、銀行法も証券取引法も金融庁に対して正規の登録手順を踏まずに「支店」をつくることを認めていないからである。GMOインターネット証券の取引ツール「はっちゅう君」は、APIが公開されているため、それを張ったサイトやブログが自然発生的に増えるようになっている(Web2.0型金融ビジネスは成り立つか:「ネット金融2.0」のカギ参照)。取引ツールの所在がネット上のさまざまなところに増えるということは、ネット支店が増えると同義となる。

 ただ、GMOインターネット証券の場合、「はっちゅう君」の「兄弟プログラム」から発注しても、直接証券取引所につながる仕組みではなく、GMOインターネット証券を通じて証券取引所に売買を発注するようになっているという。だが、「金融庁の裁量次第」というのは非常に怖いと、M氏は指摘する。例えば、簡単にいうと、証券業務ができるのは原則として、証券外務員資格を保有し、証券会社などで外務員登録をした人に限られる。そのため、自然発生的に増殖した「兄弟プログラム」の存在は微妙になる。ただの窓口と判断されれば問題ないかもしれないが、勧誘していると見る法解釈の余地も残されているからだ。仮に窓口としての役割だけだとしても、個人とはいえ証券仲介業とみなされれば、内閣総理大臣の登録を受けていないと問題となる。

 「金融業界には必ず守らなければならない『線』がある。その『線』は裁量次第で上がったり下がったりする。いずれにせよ、その『線』からはみ出せばアウト。だから、裁量の余地で『線』を上げ下げされても大丈夫なように、そのグレーゾーンより少し余裕をもっておかなければならない。そう考えると、金融業を営もうとすればコンサバティブにならざるを得ない。銀行員といえば堅い人だといわれるのは、当たり前のことなのである。(ライブドア元代表取締役社長の)堀江さんや(M&Aコンサルティング前代表の)村上さんは(コンサバティブではない、画期的なことをして)脚光を浴びたが、その影響力が大きくなると、ある日突然、バサッとやられた。そういうことが起きても不思議ではない業界なのだ。GMOインターネット証券も、今はまだお目こぼしで許してもらえるかもしれないが、口座数が増えて影響力が出てくれば、金融庁はいきなり『証券取引法違反だ』といってくるかもしれない」(M氏)

 M氏によると、金融庁が神経を尖らせているのは、個人の財産権が侵害されるということ。それは例えば、他人の口座のお金が勝手に引き出されるといったことである。それを防ぐという目的が、取り締まりに「動くかどうか」という判断を委ねる大元にある。従って、お金を預かる、株売買の発注により財産が動く、現金が株・為替・債権になるといった財産の種類が変わるというような機能を備えることは、法律によって縛られる可能性が高い。また、規制による裁量権が多分に発生するところだ。そういう意味では、Web2.0の技術であれ通常のネット技術であれ、そのような機能を備えることは非常に危険なのである。

 だが、M氏は「金融にまつわるコミュニティや情報交換といったものでネットを活用する、あるいはWeb2.0の技術を使うというのは魅力的なこと」と語る。しかも、それは金融庁の管轄外で、恐らく経済産業省が担当する世界だという。従って、ネット金融の機能は、取引の部分と情報の部分を分ければ問題ないという。取引を請け負うのであればブローカーに徹し、情報のやりとりは個人の財産権を侵害する可能性が著しく高いため手掛けない、というようにすればいいのである。そのため、それぞれは違う企業体が担うようにする。グループ会社内でも会社を分ける必要がある。

 金融というものを、取引を含めた一般的な銀行・証券業として考えれば、Web2.0型ビジネスできちんとやろうとするのは多分無理だとM氏は指摘する。ほかの会社と提携するなり、グループ会社のコミュニティといったコンテンツを活用して手掛けるのは問題ないだろうが、それが相互リンクするような世界でネット金融を手掛けるとなると、かなり無理があるという。「ネット金融」は、それだけ微妙な領域のビジネスなのである。

※1 アプリケーション・プログラム・インタフェースの略。ソフトウェア開発におけるプログラム上のルールを意味する。それに従えば、基となるソフトと共通する機能を自らプログラミングすることなく、そのソフトをカスタマイズできる。

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