高電圧直流給電――データセンターは交流から直流へ日曜日の歴史探検

データセンターにかんするトピックは、今、IT業界で注目を集めるトピックの1つです。データセンター全体のエネルギー効率を改善する動きが盛んですが、その1つの方法として、これまでの交流給電に代わり、直流給電を用いようとする動きが活発化しています。

» 2009年07月26日 00時00分 公開
[前島梓,ITmedia]

 「グーグルの最新のデータセンターは非常識なほど進化している」というPublickeyのエントリが注目されていることからも明らかなように、最新最先端のデータセンターにかんするトピックは、今、IT業界で注目を集めるトピックの1つといえます。

 構築よりも維持のコストをいかに削減するかがポイントとなる昨今のデータセンター事情。ブレードサーバなどの普及によってラック当たりの集積度が高まり、それとともにラック当たりの消費電力は急激に向上しています。グリーンITへの関心が高まっていることもあり、データセンター全体のエネルギー効率を改善する動きが盛んですが、その1つの方法として、これまでの交流給電に代わり、直流給電を用いようとする動きが活発化しています。

 改めて説明するまでもありませんが、交流給電はエネルギー効率の悪い給電方式です。データセンターに設置される機器を直流で駆動させるメリットを一言で説明すると、「電源の変換段数の削減」であるといえます。交流方式の電源を使用する場合、電力会社から供給された交流の電力は、データセンター設備のUPS(無停電電源装置)などのバックアップ用電池に蓄電するために、いったん直流に変換され、機器に入力する前に再び交流に変換しています。プロセッサやHDDなどの部品は直流給電方式であり、ここでもう一度直流に変換されるので、変換段数は4段となります。

直流給電と交流給電の比較(出典:NTT発表資料)

 一方、直流給電の場合は変換段数が2段ですむため、変換ロスによるエネルギー損失を削減できるほか、発熱の抑制によって空調容量も抑制できます。これらは数多くの実証実験から証明されており、例えば、米国でEPRIが中心となって行ったデータセンターの直流化実証実験では、交流給電に比べて10%近い効率化がよいと評価されていますし、国内であればNTTグループが行った実証実験(後述)で、交流給電に比べて20%近い効率化と、一けた高い信頼性が得られるとの評価結果が得られたようです。

NTTグループの動向を注視

 データセンターの直流化。国内でその流れを推進しているのが、上述したNTTグループです。NTTグループは2008年6月に「直流給電推進の取り組み方針」を打ち出しました。すでにNTTファシリティーズでは、「DC POWER」というブランドで直流48ボルト給電を展開していますが、ラック当たりの電力密度が昨今急激に上昇していることから、48ボルト給電ではやや心もとないものがあります。例えばラック当たりの消費電力を15キロワット程度と仮定すると、直流48ボルトでは300アンペアを超える電流を供給する必要があります。これだけの電流を供給するには、給電ケーブルを太くせざるを得ず、そのことで配線上の問題や冷却のための通気が妨げられる問題が生じます。

 このため、NTTグループが掲げた方針では、単に直流給電を推進するだけでなく、より高効率な給電を実現する高電圧直流給電技術の開発を重点的に推進する姿勢が打ち出されています。高電圧直流給電は、既存の通信装置が利用する48ボルトの電圧よりも高い、380ボルト程度の電圧で給電を行うものです。高電圧で給電を行うため、給電ケーブルの銅断面積を数分の1から10分の1程度にまで小さくすることができ、送電効率が改善できることになります。

 2009年に入ると、NTTデータが自社のデータセンターで、高電圧直流給電システムの実証実験を開始しました。これは、NTTファシリティーズとNTTデータイーエックステクノが開発を進めている高電圧直流給電システムをNTTデータの社内システムの一部に導入するというもので、この施策によりデータセンターの消費電力を最大20%程度削減することを目指しています

 このように高電圧直流給電の実証実験は各国で進められていますが、現時点では、電圧などが一本化されておらず、220ボルトから550ボルトまでさまざまです。そのため、標準化あるいは規格化の動きが業界全体で急速に進みつつあるところです。

 NTTグループでは、2010年度には高電圧直流給電の導入開始を目指すとしており、標準化にも積極的に働きかけていく姿勢です。今後、データセンターの利用を検討されている場合は、高電圧直流給電への対応具合も視野に入れて検討する必要が出てくるでしょう。

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