クラウド市場の成長をけん引しているのはSaaSだ。だが今後は、PaaSやIaaSの分野で大きな成長が見込まれる。本稿ではクラウド市場の普及の鍵を握るSaaS、PaaS、IaaSについて、現状の課題を考察する。
クラウドコンピューティング(以下、クラウド)は引き続きホットなトピックとして連日のように多くのメディアで取り上げられている。ベンダー側はこの動きに乗り、クラウドを取り入れたサービスを市場に強く訴求している。一方で、ユーザー側は比較的静観してクラウドをとらえているようにも感じられる。
実際、クラウドに関連する市場は今どれくらいの規模があり、将来的にはどのように発展していくのか。本稿では「ユーザー企業への調査に基づくクラウド関連の市場規模試算」という観点から、クラウド市場を眺めてみる。
下のグラフは、国内における2009年から2012年までのクラウド関連市場の規模を示したものだ。2009年の市場規模は249億円となり、2012年には2000億円を超える見通しだ。今後数年で、市場規模は急拡大していくことが分かる(図1)。
だが、クラウドという言葉の定義はさまざまであり、どの要素を「クラウド」という言葉に含めるかによって、その意味合いが異なってくる。まずはクラウドの定義から始めたい。
ノークリサーチではクラウドを「XaaS」の一部とみなしている。XaaSの定義の定義は以下の通りだ。
情報システムの構築、運用におけるビジネス形態の1つであり、ハードウェアやネットワーク、ミドルウェア、アプリケーションなどのITリソースをインターネット経由でサービスとして提供するもの
XaaSは、(1)ハードウェアやネットワークなどのインフラをサービスとして提供する「IaaS(またはHaaS)」、(2)開発や運用のプラットフォームとなる環境や開発言語、フレームワークを提供する「PaaS」、(3)ユーザーにアプリケーションなどまとまった形の業務遂行手段を提供する「SaaS」――の3つに分類できる。IaaSはハードウェア、PaaSはミドルウェア、SaaSはソフトウェアの層を扱う概念とも言い換えられる。
OSをIaaSとPaaSのどちらに含めるかは微妙だが、仮想化されたハードウェア環境にはOSイメージが含まれることも多い。OSまでをIaaSの範囲とするのが、現状に適した区分けだ。
XaaSの種類は増加傾向にあるが、いずれもIaaS/PaaS/SaaSに分類できる。例えば仮想的なデスクトップ環境をサービスとして提供する「DaaS(Desktop as a Service)」は、クライアントのハードウェアとOSを対象にするという意味で、IaaSとみなせる。ストレージ機器をサービス提供する「STaaS(Storage as a Service)」もIaaSに含まれる。一方、データベースなどのミドルウェアをサービスとして提供する「DaaS(Database as a Service)」はPaaSに含まれる。
クラウドもITリソースをサービスとして提供する点ではXaaSと同じだが、ノークリサーチではクラウドとXaaSには2つの相違点があるととらえている。以下がクラウドの定義だ。
XaaSに「仮想化や抽象化によるシステム構築、運用における柔軟性と迅速性」と「ITリソースの規模拡大や共有によるスケールメリット、効率改善、可用性向上」という2つの要素を加えた情報システムの構築、運用形態
つまりクラウドは、ユーザー企業の既存の情報システムを預かり、運用や管理をサービスとして提供するだけでなく、仮想化技術を活用してハードウェアの構成にしばられないシステム構築を可能にしたり、世界規模でITリソースを運用することで可用性の高い運用環境を安価に提供したりするサービスである。アウトソーシングの形態にこれらの価値が加わったものが、クラウドの真の姿なのである。
これらを踏まえて、冒頭に挙げたクラウド関連の市場規模を考察したい。予測したクラウド市場の規模は、「XaaS市場規模を算出し、その何割がクラウドに移行するか」という観点で試算している。市場規模の内訳をIaaS、PaaS、SaaSとしているのも、そうした理由からだ。それでは、市場規模の中身を詳しく見ていくことにしよう。
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