世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

ICTの“今”を取り巻く3つのホットなキーワード世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/2 ページ)

» 2010年01月18日 08時00分 公開
[百瀬崇,ITmedia]
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若手にやりがいのある仕事を回してスキルの継承を

桑津氏 野村総合研究所コンサルティング事業本部情報・通信コンサルタント部長主席コンサルタント 桑津浩太郎氏

 2つ目のキーワードは人材の育成である。日本社会と同様にICT人材の高齢化が進行している。若年人材の補給がままならないICT企業が少なくない。

 理工系大学ではICT企業への就職希望者が激減している。桑津氏は、「かつてのように、理工系大学出身の若者を大量採用して情報システム部門の人数を確保し、同じ文化背景を持つ技術者がシステムを作って運用することが、中期的には難しくなる」と話す。

 解決する切り口は、「ダイバーシティ(企業で、人種・国籍・性・年齢を問わずに人材を活用すること)」。定年退職者や女性、外国人の活用が必要で、特に外国人の活用はポイントになると桑津氏は言う。ICT部門の場合、人材を日本国内に呼び込む必要はない。オフショアリングに代表されるように、海外の人材とネットワークを介してつながり、仕事の成果物を送ってもらえばいいわけだ。

 これまでの情報システム部門はドメスティックな部署だった。日本人を相手に、日本式のやり方でニーズに応えていればよかった。「だが、これからはそうはいっていられない。外国人とコミュニケーションを取る必要性が高まっている」と桑津氏は話す。

 「情報システム部門はほかの部署に比べて、国際化のプレッシャーを受けるのが遅かった。ただ、国際化しようとすればネットワークでつながって運用できるだけ進み方は速い」(桑津氏)

 他方、日本人の若者へのスキルの継承も欠かせない。今のICT部門のベテランが若かったころは、次から次へと新しい技術が生まれ、それにかかわれることが楽しいと多くの人が感じていた。だが今は、技術的にかつてほど光り輝いていない状況にある。この場合、以前のように若者に下働きばかりやらせていてはモラールを低下させる恐れがあると桑津氏は指摘する。

 限られた人数で、以前よりもやるべき仕事が増えているという状況のなかで、若い人材にスキルの継承と価値観を継承しつつ、彼らに新しい成長の機会を与えなければいけない。グローバル化や新事業といった領域へ、積極的に若い人材を登用していく必要があると桑津氏は話す。現場のモラールダウンは想像以上に深刻なのだ。

 また桑津氏はこう警鐘を鳴らす。「以前のように、一生懸命やっていれば次々と新しいテーマが生まれ、システム予算が増える時代ではない。意図的に若い人へやりがいのある仕事を回していかないと、スキルの継承もモラールの維持も難しい。最適構成でやるならベテランがいいという考え方もあるが、若手が活躍できる場を提供すべきだ。現場のモラールの低下からくるICT部門の弱体化は、深刻なレベルまで来ている」

クラウドコンピューティングの流れは止められない

 3つ目のキーワードはクラウドコンピューティングである。「グローバル化の場合は、標準化、統合化がカギを握る。機動力を持ったシステムを実現できるかが重要で、インフラではクラウドコンピューティングへ注目が集まる」と山野井氏は語る。

 ただし、クラウドコンピューティングは、技術的に成熟したものではない。本格的に企業に導入されるまでには、これからまだ3年ぐらいかかるという意見もある。

 「例えば、仮想化や運用の自動化という技術にしてもまだ発展途上。ここがある程度成熟して、ようやくクラウドコンピューティングが現実的な話になる。今はまだクラウドコンピューティングを提供する側がビジネスとして成立させるのに四苦八苦している状態。少なくともベンダーとユーザーがお互いに利点を得られる関係になるまではしばらく時間がかかる」(山野井氏)

 だが、クラウドコンピューティングの流れは止められないと山野井氏は言う。桑津氏も「高齢化によって人手が足りなくなるICTの部門が、自前の人材を強化するのも重要だが、クラウドコンピューティングに代表される外部リソースを使い、できる限り品質を保つといったアプローチを取らざるを得ない」と話す。

 クラウドコンピューティングに対しては、減点法と加点法の2つの視点があると桑津氏。減点法でみれば、自分の手が届かないところにシステムがあり、品質は保証されない。安かろう悪かろうではないかというわけだ。「非常に高度なシステムを自分で運用している人にとってはまったく正当な評価」(桑津氏)。

 一方、グローバル視点で考えたときには加点法になる。例えば、企業が発展途上国のマーケットに出て行ったときに、日本で運用しているシステムを構築して運用したいといっても無理な話だ。

 「例えば、そのような土地で一番信用できるメールシステムは何かというと、Gmailのようなものかもしれない。グローバル基準でみたときに、“クラウドコンピューティングはサービス品質が低いからダメだ”というように、安易に片付けられない現実がそこまで来ている」と桑津氏は言う。

 実はグローバル化や人材の育成という話と、クラウドコンピューティングの話は1つのテーマとしてつながっている。人手が足りなくなるからこそ安いリソースを外からうまく使えるようにしなければいけない。「その際に、品質へこだわりたいという気持ちは良く分かる。競争力の源泉となるシステムはずっと自社内で保持されるべきだろう。だからと言って、クラウドコンピューティングを否定することはできない」(桑津氏)

 ICTを語るうえで欠かせない3つのキーワード――グローバル化・人材育成・クラウドコンピューティング――にうまく対応できるか否かは、企業全体の活力にもかかわってくる。世界中の企業と互角に戦うには、3つのキーワードに注力してICTを自社の強みとすることが求められているようだ。

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