クラウドを支える旗艦データセンターは“エコロジー&エコノミック”だった丸山不二夫も感心

2009年に新設された日立の旗艦データセンターは「環境配慮型」であることが特徴。早稲田大学の丸山客員教授もその取り組みを評価しているようだ。

» 2010年02月15日 08時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 オンプレミスなITから、利用するITへ――このような掛け声とともに情報システムのクラウド化が進むならば、その拠点としてデータセンターの重要性が高まるのは必然だ。Harmonious Cloudとしてクラウドソリューションの体系化を図った日立においてもその事情は同様であり、2009年7月には横浜地区で3棟目のデータセンターとなる「横浜第3センタ」を開設。環境配慮型とも位置付けられる同センターは、IT機器から施設のファシリティにまでグループ内で製造を手掛ける日立の総力を集めた、まさに“旗艦データセンター”として存在している。

環境配慮、堅牢性、セキュリティ――データセンターに求められる3要素

横浜第3センタ 横浜第3センタは、日立のデータセンターとして国内18番目の施設。同社の所有するデータセンターは総設置面積にして実に6万平方メートルにおよぶが、そのうち1万平方メートルを横浜第3センタが占めている。日立のクラウド戦略の中核となる旗艦データセンターだ。なお館内は撮影が許されず、残念至極――

 「横浜第3センタの特徴は、環境配慮、堅牢性・信頼性、そしてセキュリティだ」と日立 データセンタ本部 サービス推進部の今村純 部長代理は話す。例えば堅牢性については、「安定した上総層群に属する“土丹層”という地盤を選び、建設した。この場所は地質調査の結果、関東地方においては珍しく非常に安定した地盤であることが分かっている」(今村氏)という。

 センターの建物自体にも堅牢性を高める工法が採用されている。一般的な耐震構造は、地震の際の揺れが建物全体に伝わるため、そこに設置された機器が破損してしまい、サービスが停止する恐れがある。そこで日立が選んだのは、基礎と建物の間に特殊ゴム製の「ダンパー」を複数設置する「免震構造」である。

 地震が発生した場合は、最大60センチメートルまで変形する免震ダンパーが横揺れを吸収し、建物に地震の揺れを直接伝えない。今村氏の説明によると、例えば関東大震災クラスの地震が建物を襲ったとしても、揺れが免震装置で減衰されるため、各フロアの揺れは震度3程度に抑えられるという。

 なお直下型地震が発生した場合は、免震ダンパーの効果が出にくい縦揺れが発生するが、「地盤の強固さとともに、近隣に活断層が存在しないことを調査確認し、建設している」(今村氏)という。階段なども、揺れに影響を受けないよう最後の一段を中に浮かせる(上階から下階に向かって階段がぶら下がるような構造)をとる。

 立地については、発電所との距離も考慮し、決められている。横浜第3センタの場合も、付近に発電所を擁し、そこからセンター専用の送電線を2系統(本番と待機)確保している。「家庭で言えば、万一に備えブレーカー2つの契約をしているようなもの」(今村氏)

 送電された電力は、5台を1群とした大型UPS装置(無停電電源装置。日立製のUNIPARA)により、IT機器への供給が担保される。5台のうち1台はスタンバイであり、いわゆる“N+1”構成である。横浜第3センタでは2群ごとにさらに1台ずつ、共通の予備機を割り当てた構成をとる。必要設備をグループ内で調達できる日立ならではの芸当である。

 ほぼ考えられないことだが――それでも給電が絶えた場合は、センターをフル稼働で48時間以上維持できる自家発電設備を、これもN+1の構成で備える。データセンターにとって電力はまさに“命綱”だが、「電源は完全に冗長化している。あらゆる点でSPOF(Single Point of Failure:システム全体に障害をもたらす単一箇所)はない」と今村氏は胸を張る。

物理監視は万全だが、モノモノしさは低い

 横浜第3センタは、約2万平方メートルという広大な敷地に立つ。これだけの広さが必要な理由として今村氏はまず、物理セキュリティを挙げる。

 データセンターとして、ネットワークセキュリティに備えるのは当たり前の話だ。だが金融機関や官公庁などで扱われるデータを保守する観点では、不正な侵入者の排除も考慮せねばならない。

 そのため同センターでは、広大な敷地の各所にゲートおよび監視カメラを設置している。もちろん建物内各所でも、共連れ入室を防ぐサークルゲートや、指静脈などバイオメトリクスによる認証が行われる。サークルゲートを通過する際には体重の測定も可能で、再通過時に重さが異なると、「何かを持ち出したのでは」あるいは「何かを置いてきたのでは」という観点からセキュリティチェックが入る。

 併せて敷地の広さには、近隣で火災などが発生しても、その影響を受けにくいというメリットがある。とはいえ施設外周にものものしい雰囲気は少なく、隣接した敷地にはフットサル場などが設けられ、ふんだんに緑地も配されており、環境配慮型の名に恥じない外観に感じられる。

環境配慮は省電力化に限らず

 環境配慮という観点からも、2007年からの5年間でデータセンターの消費電力半減を目指すCoolCenter50プロジェクトを進めている日立としては、横浜第3センタの“エコデータセンター化”にも本腰を入れて取り組んでいるようだ。

 「水冷式の冷却効率は高いが、災害時の水の調達と確保にまだ難がある」(今村氏)という認識から、横浜第3センタでは空冷式の冷却装置にこだわっているという。センターに導入されたのは、NTTファシリティーズと日立アプライアンスが共同開発した高効率空調機「FMACS-V」。汎用インバータのエアコンより23%冷却効率が高い上に、室外機の下(FMACS-Vの室外機は、横からではなく下から吸気する)に敷き詰めたポーラスコンクリートパネル(雨天時に保水した雨水が晴天時に蒸散し、室外機下の空気が平均5度、引き下げられるという)の効果でさらに、冷却効率を向上させた。

 またマシンルームに対しても“梁(はり)下3メートル”という余裕のある高さを持たせ、機器からの廃熱をうまく逃がす構造になっている。熱だまりや過冷却の発生については、熱量シミュレータでマシンルームの空調を可視化してから機材を配置し、防止を図る。なお横浜第3センタは、ハウジングもホスティングも、そしてコロケーションも受け入れるデータセンターである以上、定期的に機材も入退去するが、「その都度、シミュレートし、空調を最適配置する。FMACS-Vに加え、必要に応じラック型空調機の設置も行う」(今村氏)という。

 環境配慮、という視点は、なにも省電力に限る話ではない。例えば同センターのマシンルームには、超高感度の煙感装置が設置されている。その感度は「1000平方メートルの広さのなかでタバコに火を付けようとしても感知する」(今村氏)ほどである。

 とはいえ、機材のショートなどで煙を感知したからといって、スプリンクラーで水をぶちまけるわけには行かない(もちろん、マシンルーム内の機材が全滅してしまうからだ)。そのため横浜第3センタでは、ガス消火設備を用いている。「ガスは窒素で組成されている。窒素は、環境に負荷を与える係数がゼロと定義されている」(今村氏)

「2つのエコが、企業競争力を強化する」――早稲田大学 丸山客員教授

丸山客員教授 日立のデータセンターについて所見を話す丸山客員教授

 IT機器の不具合はもちろん、これまで取り上げてきた物理セキュリティや機材の死活監視にあたるのが、横浜第3センタ内の「日立統合管制センタ」だ。各分野専門のエンジニアが、最大約70人体制で、24時間365日にわたりデータセンター全体を運用するという(非常時のために宿泊施設を備え、また飲食料も備蓄されている)。

 彼らが監視する対象には、日立の統合運用管理ツールJP1で監視できるサーバやストレージに加え、分電盤や空調、各種セキュリティ機器、UPS、発電機といった非ITの設備機器も含まれる。これらの管理にはWebVisorBUILMAXといったツールを利用しており、またそれらのツールがJP1などと会話できるよう、ツール間連携を図っているという。

 とはいえ、例えばSNMPのようなIPネットワーク上の機器を監視するプロトコルと、設備機器を監視するツールのプロトコルは、その文化を異にしており、まだ完全に連携したとは言い切れない面もあろう。「センターの運用を通じ、いっそうの改善を図りたい」(今村氏)

 前身となる横浜第1センタが完成したのは、1991年のこと。その後、第2センタ、今回の第3センタと約10年おきにデータセンターが新設されている背景には、クラウドの一般化による需要増もあろう。センターを視察した早稲田大学大学院 丸山不二夫 客員教授は「(データセンターの)消費電力半減を掲げ、併せて横浜第3センタとして具体化した日立の取り組みは評価されるもの」と話す。

 「データセンターの運営に当たっては、消費電力やPUE(Power Usage Effectiveness:データセンター全体の消費電力を、IT機器の消費電力で割った数値。1.0に近いほど高効率とされる)といった指標を意識して、データセンターの経済的な競争力を強化することが重要。クラウド時代のデータセンターでは、エコロジーであることが、エコノミックであることにつながるのだ」(丸山客員教授)

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