世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

越境するデータの管理――グローバルクラウドで失敗しないために(後編)世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(2/2 ページ)

» 2010年02月18日 08時00分 公開
[水越尚子,ITmedia]
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3.二次的情報、情報の二次的使用に関する取り決め

 クラウド上に保存されるデータの権利は利用者側にあり、プロバイダーはデータの修正や変更を一切加えてはいけないと約束されている場合が多い。

 クラウドに複数の企業が預けたデータからは、各企業のデータ量やクラウドサービスの時間ごとの利用率、従業員の男女比率による活動の差、業種別に頻繁に利用されるキーワード――などが分かる。これらを分析した情報は、新たな経済的価値を持つ。この情報の利用権は誰に属すのか、プロバイダーはこの情報を活用できるのかについて、利用契約で取り決めがあるかを確認しておこう。

 データの開示については、各プロバイダーは異なる条件で顧客の秘密保持を守ると誓約している。そのため、企業は「秘密」に含まれるデータの定義を明確に把握し、プロバイダーが順守すべきデータ保護のルールを明確にしておこう。

 Googleの「セキュリティとプライバシー」によると、Google Appsでは迷惑メールのフィルタリング機能や広告サービスを提供する場合、利用者の電子メールや預けたドキュメントの内容をインデックスに登録すること、スキャンした情報が第三者に開示されないこと、ログが匿名化される時期が記述されている。

 またWindows Azure Platformのプライバシーに関する声明によると、クラウドサービスの提供や運営、維持を目的として、個人情報の統計データやサービスの利用状況を使用する場合があるとしている。


4.情報へのアクセスや開示の条件

 クラウドサービスの利用契約には、情報の開示やアクセスに関する例外的な条件がある。それは、適用される法的手続や法的強制力のある政府の要求に従うことだ。

 先日、中国政府からの検閲やサイバー攻撃に業を煮やしたGoogleが、中国からのサービス撤退を視野に入れているという報道があった。このニュースは、一言で「適用される法的手続き」とはいっても、行政機関や捜査機関の権限の範囲は国ごとに差異があることを認識させられるものだった。現地でサービスを提供したり海外のサービスを利用したりする企業は、当該国の機関の権限の範囲や行使方法、トレンドの理解が必要になる。

5.システムの信頼性や稼働に対する保証、SLA

 各プロバイダーのクラウドサービスには、サービスレベル契約(Service Level Agreement:SLA)が定められている。SLAは、稼働率の保証と稼働率が下回った場合の対応を規定したものだ。各サービスにおける稼働率の定義や算出方法を熟知しておくと、サービスの信頼性を検討しやすい。

クラウドサービス SLAで保証されている稼働率 下回った場合の対応 稼働率の算出法 (A)÷(B)で算出 言葉の定義
Google Apps Premier Edition 各月99.9% 最大15日分のサービスクレジットを提供 (A)各月の総分数(30日の場合、合計4万3200分)−ダウンタイムの分数 (B)各月の総分数 ダウンタイムとは、1つのドメインに対して5%以上のエラーが発生する状態。10分以上連続しないダウンタイムは含まない
Amazon EC2 年間99.95% 10%のサービスクレジットを提供 (A)1年間の総分数−使用不可能だった5分単位の分数の合計 (B)1年間の総分数 使用不可能とは、ユーザーが実行中の全インスタンスが外部と接続できず、かつ代替インスタンスが立ち上がらない状態が5分以上続くこと
Windows Azure Compute 接続稼働時間は各月99.95% 10%のサービスクレジット(99%を下回った場合は25%)を提供 (A)月間最大接続分数−月間接続ダウンタイム (B)月間最大接続分分数 月間最大接続分数とは、異なる更新ドメインに展開された2つ以上のインスタンスを持つ全ロールの累積時間。月間接続ダウンタイムとは、5分間に外部接続されなかった分数(5分単位)
ロールインスタンスの稼働時間は各月99.9% 10%のサービスクレジット(99%を下回った場合は25%)を提供 (A)月間最大ロールインスタンス時間−月間ロールインスタンスのダウンタイム時間 (B)月間最大ロールインスタンス時間 月間最大ロールインスタンス時間とは、単一パッケージで展開される全ロールインスタンスの合計累積時間。ダウンタイムとは、2分間以上動作しなかった全ロールインスタンスの合計累積時間

 世界規模でクラウドサービスを利用する企業は、契約内容をサービスごとに精査し、自社の利用形態にあったサービスを選ぶべきである。

著者プロフィール 水越尚子(みずこし なおこ)

水越尚子

2010年3月1日にエンデバー法律事務所を設立。日本およびカリフォルニア州の弁護士資格を有し、IT企業での社内弁護士の経験を生かして、情報通信、セキュリティ、知的財産権、国際取引を専門に、企業法務に関するアドバイスを行う。一橋大学卒業。




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