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» 2011年07月11日 13時47分 UPDATE

クラウド ビフォア・アフター:社会インフラとしてのクラウドへの期待

事業継続性に優れ、機動性、復旧容易性の高いクラウドを社会インフラとして採用検討する動きが、各自治体で始まっている。

[林雅之,ITmedia]

 東日本大震災後、企業や自治体のクラウドコンピューティング(以下:クラウド)に対する考え方が、大きく変化している。BCP(事業継続計画)や情報システムの迅速な再構築性、そして自前でデータを保有するよりもサービスを利用することの安全性などの観点から、クラウドを検討・活用する動きが今後進んでいくだろう。

事業継続の観点で選ばれるクラウド

 2011年3月11日の震災直後、宮城県南三陸町の役場は建物が全壊し、住民関連データを格納したサーバが流され、戸籍の原本データが消失した。岩手県大槌町も住民基本台帳サーバをはじめとしたハードが破損しデータが消失するなど、被災各地の自治体で、情報システムの破壊や停止などの大きな被害を受けた。いずれも後にバックアップデータが見つかったものの、データを安全に保存し、被害を最小化する情報システムの再構築が求められるようになった。

 社団法人日本情報システム・ユーザー協会(略称:JUAS)が6月13日に公表した「企業IT動向調査2011」の追加調査によると、震災当時には15%だった「BCPを定期的に見直す」と回答した企業が、その後38%と約2.5倍に増加。特に、震災で直接被害があった企業は、52%が「BCPを定期的に見直す」と回答している。BCPの見直しに当たっては、外部データセンターの活用を「導入」および「検討する」と回答した企業が75%を占め、クラウドへの転換を「導入」「検討する」企業は59%にのぼっている。自治体などの公共機関も同様に、BCPの観点からクラウドの導入が今後進んでいくと予想される。

情報提供手段としてのクラウド

 また、震災直後は被災地の自治体など公的機関のWebサイトに全国からアクセスが集中してつながりにくく、被害状況や避難所の情報収集ができないという障害が生じたが、クラウド事業者各社がクラウドによるミラーサイトの構築やクラウドサービスの無償提供を行い、アクセス集中の緩和と円滑な情報提供を支援した。

 中央でも、文部科学省の全国放射線測定データページや農林水産省被災者受け入れ情報システムなどをクラウドで迅速に構築した。

 今回の震災は、政府や自治体が、ソーシャルメディアを公共サービスとして活用するようになる動きとともに、BCPや迅速なサービス提供といった観点で、情報システムを保有・運営する形態からサービスを利用する形態への移行を促す契機となると予想される。

大規模災害時における政府・自治体の情報システムのあり方

 総務省は年5月19日に開催した「第9回政府情報システム改革検討会」で、大規模災害時等における政府情報システムの在り方について検討を進め、震災後に顕在化した政府・自治体の情報システムの課題と方向性について、以下の3つを挙げた。

  • サービスを迅速に復旧する環境の整備(復旧容易性)
  • 業務継続のための基盤の提供(業務継続性)
  • 非常時に必要なサービスを迅速に提供する環境の整備(機動性)

 資料には、データのバックアップでの連携の必要性(復旧容易性)や、非常時のコンピューティングリソースを念頭に置いた冗長性の保持(機動性)などの観点から、クラウド活用の重要性が記載されている。

 総務省などは震災前から本改革検討会で、政府情報システムの効率的な開発・管理・運用といった全体最適の観点から、標準化・共通化に向けたクラウド関連技術を活用した「政府共通プラットフォームの整備」の検討を進めている。また、各自治体は、自治体クラウド推進本部を設置し、地方自治体へのクラウド導入の全国展開に向けた検討を進めている。

 震災を契機に、大規模災害時の対応も想定した政府や自治体におけるクラウドの導入が進むことが期待される。

ICTやクラウドによる震災復興支援

 ICTやクラウドを活用した東北復興を支援する動きも広がりを見せている。

 5月13日、「東日本大震災復興支援クラウドフォーラム」が発足した。フォーラムはクラウドによる情報化基盤を被災地域に普及させ、創造的復興に大きく貢献することを目的とし、クラウドを活用した社会や行政に対する提案・提言、および仕組みの構築などの検討を進めている。

 また6月19日には、宮城県仙台市で「ICT復興支援国際会議」が開催された。全国から集まったICT関係者が、被災地の目線に立ったICTやクラウド提供の重要性や、地域の枠を超えた連携やビジネスマッチングについて議論を交わし、ICTを活用した復興事業が地域経済の自立につながるための活動を推進していく。

社会インフラとしてのクラウド

 政府の「東日本大震災復興構想会議」は6月25日、復興ビジョンをまとめた「復興への提言〜悲惨のなかの希望〜」首相に提出した。

 提言内の「人を活かす情報通信技術の活用」では、情報通信基盤の整備やICTを活用した地域コミュニティの再生、Webサイトによる政策の「見える化」、そして政府保有データの利用しやすい形での提供の必要性などが挙げられている。

 また、行政、医療、教育など地域社会を支える分野のデータが震災により滅失したことを踏まえ、これらの分野における情報の一層のデジタル化を進め、クラウドサービスの導入を強力に推進すべきである、とも記している。

 復興構想会議(第9回:6月11日)資料の、「情報通信技術による復興への貢献(施策例)」では、情報通信インフラの再構築、情報の発信・提供、情報通信技術の利活用の促進、そして企業再生といった施策の方向性が示されている。

hayashimasayuki_2a.jpg 出典:第9回東日本大震災復興構想会議(2011.6.11)

 情報通信技術の利活用という点では、クラウドを活用した社会インフラの高度化に向けた公共クラウドの位置付けが増していくだろう。

 例えば医療分野では、患者データが津波で流されて病歴が把握できずに、適正な診療ができないという問題が生じた。これを避けるためには、どこの病院でも患者の病歴を把握し適正な診療をするためのクラウド基盤整備が必要となる。同様に、教育や防災などの公共分野においても、クラウドを活用したサービス利用の検討が進むことが予想される。

 震災は未曽有の悲劇であったが、価値観の変化したクラウドが、東北の地を新たな知識産業の集積地とし新たな産業を創出する契機となることを期待する。

著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)

 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)

ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点

2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。

国際大学GLOCOM客員研究員(2011年6月〜)。クラウド社会システム論や情報通信政策全般を研究(予定)。

著書『「クラウド・ビジネス」入門


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