公共サービスとして広がるソーシャルメディアクラウド ビフォア・アフター

3月11日の震災を機に、自治体のソーシャルメディア活用はどのように変わったのか。国際大学GLOCOM客員研究員林雅之氏が解説する

» 2011年06月17日 12時00分 公開
[林雅之,ITmedia]

 3月11日の震災発生以降、災害情報や安否情報などの情報共有で、ソーシャルメディアが活躍している。特に自治体や政府などからリアルタイムに発信される情報は信頼度が高く、今後、公共サービスとしてソーシャルメディア活用されていく契機となった。

ソーシャルメディアを活用した震災直後の自治体

 東日本大震災が起きた3月11日、青森県庁、岩手県庁、宮城県気仙沼市危機管理課など被災地の自治体は、震災直後から、Twitterなどのソーシャルメディアを活用して、刻々と変化する被災現場の状況や生活支援に関する情報を発信し続けた。

 宮城県気仙沼市危機管理課(@bosai_kesennuma)は、地震発生から9分後の14時55分、「宮城県沿岸に大津波警報、高台に避難」と、被災地の自治体の中で最も早い情報発信をTwitterで行った。気仙沼市役所は地震直後に停電となったが、高台にあった携帯電話の基地局が地震発生直後から22時37分までの約8時間予備電源で稼働できたため、携帯電話などを使って現地からの被災状況を約60個投稿することができた。NHKはこれらを被災地からの生々しい情報として、火災模様の中継とともに紹介している。

気仙沼市危機管理課の情報発信状況

 気仙沼市のみならず、青森県や岩手県、そして液状化で大きな被害を受けた千葉県浦安市など多くの自治体でも、公式ホームページが停電やアクセス集中によりアクセスできない状況が続く中、被災状況や生活支援に関する情報をTwitterでリアルタイムに発信し、被災住民などの問い合わせに答えるなどの対応を続けた。

 東北地方各自治体の震災前(3月6日)と震災後(3月16日)のフォロワー数を比較すると、被害の大きかった宮城県気仙沼市危機管理課(@bosai_kesennuma)が、617から30倍以上の2万1996に増えるなど、軒並みフォロワー数を伸ばしている。また、被災地の自治体だけでなく、全国各地の自治体もフォロワー数が増えている。

被災地自治体Twitterのフォロワー増加状況。岩手県広報広報課千葉県浦安市などもフォロワーが大きく増加している。

 県や市町村など自治体のTwitterの活用は、平常時においては地域の情報発信など地域活性化を目的とした情報が占めていたが、震災後は、これまで紹介したように、被害情報の提供や安否確認など、緊急性の高い情報の発信手段として力を発揮している。

 情報が錯綜し、状況が刻々と変化した震災発生直後、被災地の自治体から発信される避難情報や被害状況、医療、交通運行などの信頼性の高い情報は、被災者はもちろん、被災地以外の人々にとっても貴重な情報源となった。

 今回の震災を機に、Twitterを始める自治体が相次いでいる。経済産業省によると、国や地方公共団体など公共機関のTwitterのアカウント数は、震災前は121だったのに対し、4月4日時点で148にまで増加した。Twitterのみならず、Facebookページも立ち上げる自治体もあり、ソーシャルメディアの活用が広がっている。

相次ぐ政府・自治体のTwitter、Facebookのアカウント開設

 首相官邸は3月13日に災害情報の公式アカウント(@Kantei_Saigai)を開設している。震災直後は、首相や官房長官の記者会見模様や福島第一原発の放射能汚染、計画停電に関する情報を発信し、3月末にはフォロワー数が30万を超えた。その後は、住まい、法律、雇用や各種手続きなどの被災者支援に関する情報や、義援金、食品出荷制限などの情報を発信している。

 3月22日には首相官邸のFacebookページ「Prime Minister's Office of Japan」も開設。被災情報が正確に伝わらない海外では、放射能汚染などに関する情報不足に外国政府が不満を示しており、一部では事実と異なる報道をするケースも見られた。政府はその対策のひとつとして、首相や官房長官の会見模様や原発などの震災に関する情報を英語で発信している。

 Facebookページのコメント欄には、政府や東京電力の福島第一原子力発電所への対応などについて多くの質問が英文で書き込まれ、日本人がその質問に答えるなどのコミュニケーションの場として機能した。7億人以上が世界中でアクティブに利用するFacebookでの情報発信は、英語で発信される公式情報が少ない中、重要な役割を担った。

政府のソーシャルメディアを活用した情報発信状況

 被災現場で賢明に救援活動を進める陸上自衛隊も3月20日、陸上自衛隊のアカウント(@JGSDF_pr)を開設。被災地からの活動写真を掲載するなど、災害派遣の活動を伝えるとともに、隊員へのメッセージを受け付けた。

 Twitterでは、「捜索活動において、発見された思い出の品を手渡す陸自です。」「捜索活動を行う陸自隊員です。」「泥やがれきなどの除去作業を行う陸自隊員です。」「給食支援活動を行う陸自隊員です。」「入浴支援活動において、子どもとふれあう陸自隊員です。」「音楽演奏後、子供にサインをねだられる音楽隊の隊員です。」など、写真の投稿とともに現地の救援活動の模様をツイート。また、YouTubeチャンネル、Ustreamなどを通じて動画も公開した。

 陸上自衛隊の救援活動のツイートは多くの共感を呼び、2011年3月25日時点でフォロワー数が10万を超えた。過酷な救助活動であるにもかかわらず、心温まるメッセージが被災地現場から次々と書き込まれた。

 総務省行政管理局電子政府グループも3月15日にTwitterの公式アカウント(@eGovJapan)を開設するなど、各省庁のTwitterやFacebookのアカウントの開設が震災後、相次いでいる。

公共機関におけるソーシャルメディアの活用指針

 経済産業省は2011年4月5日、内閣官房(情報セキュリティセンターおよびIT室)や総務省と共同で、国や地方公共団体などの公共機関がソーシャルメディアを活用して情報発信をする際の留意点などを取りまとめ、「国、地方公共団体等公共機関における民間ソーシャルメディアを活用した情報発信についての指針」として発表した。

 同指針では、国や自治体などの公共機関が震災時に国民や住民に対して迅速に情報を発信していくためには、公式ホームページとともに、民間のソーシャルメディアを併用することを推奨するとした。自治体によっては公務中のソーシャルメディア利用を禁止しているところもあるが、今回の指針の発表によって、政府が公共機関のソーシャルメディアの利用に「お墨付き」を与えた格好となった。政府や自治体などでのソーシャルメディア活用が、今後さらに進んでいくことが期待される。

公共サービスとしてのソーシャルメディア

 一方、今回の震災をきっかけとして、平常時においても政府や自治体におけるソーシャルメディアの活用が広がっている。

 佐賀県武雄市は2011年4月1日、企画課、広報課、市民恊働課などを統括する「つながる部」を創設し、その下にFacebook係(秘書広報課)を新設している。同日に正式オープンしたFacebookページは、「くらしの便利帳」や「申請書」「市政情報」など市民向けのページが充実している。将来、同市は公式ホームページをFacebookに一本化し、Facebookを、さまざまな事業や政策、予算などについて、実名同士で活発に意見公開を行う場にしていくという。

 中央でも、外務省が6月1日に日本外交の発信強化のためFacebookページを開設、文部科学省も6月2日に新着情報や動画や施策紹介などを目的にFacebookページを開設するなど、活用が広がっている。

 こうしたソーシャルメディアからのインタラクティブな情報発信は、今後、公式ホームページやメルマガと同様、もしくはそれ以上に、国民・住民の視点に立った公共サービスとして、国民や住民に浸透していく可能性を秘めている。

著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)

 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)

ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点

2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。

国際大学GLOCOM客員研究員(2011年6月〜)。クラウド社会システム論や情報通信政策全般を研究(予定)。

著書『「クラウド・ビジネス」入門


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