垂直統合システム、ベンダーとユーザーに温度差

ITRの甲元シニアアナリストに、垂直統合システムのメリットやユーザー企業の反応などを聞いた。

» 2013年04月30日 10時30分 公開
[伏見学,ITmedia]

 サーバ、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェアなどを組み合わせ、1つの筐体として提供する垂直統合システム。昨年来、IT業界を賑わせており、多くのITベンダー企業が相次いでこうしたシステム製品を市場に投入している。

 そこで、垂直統合システムに対するユーザーの動向や可能性などを、IT調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)でシニアアナリストを務める甲元宏明氏に聞いた。

サイロ型システムの弊害をなくす

 垂直統合システムの大きな特徴は、提供ベンダーの多くが述べているように、導入や運用が容易になることです。サイロ型の企業情報システムにはびこる課題の解決、つまり、混在したシステム環境の設定や連携など、ビジネスに付加価値のない作業からの解放をソリューションとして提供します。

ITR シニアアナリストの甲元宏明氏 ITR シニアアナリストの甲元宏明氏

 かつてのメインフレームの時代は、完全にクローズなアーキテクチャで、ほとんど選択肢がありませんでした。その後、オープンシステムの時代になり、ITツールを選択する自由をユーザー企業は得ました。しかし、それが逆にシステムのサイロ化を招き、ITインフラの変化への対応力や柔軟性の欠如などの弊害が出てきました。そこで、まったくクローズではない、オープン性も考慮した垂直統合システムが登場したというのは自然の流れでしょう。

 アプリケーションなどのデプロイが速くなるというのも、垂直統合システムの大きな強みです。システム構築までの時間がかかるということは、それだけ工数がかかり、無駄なコストが発生するわけです。垂直統合システムを活用することで、デプロイの時間を短縮し、いつでもどこでもシステムを立ち上げられるようになります。こうした仕組みはエンタープライズITにおいても今後重要になってきます。

 また、直接的には関係ないかもしれませんが、米Appleの成功が示すように、ソフトウェアとハードウェアが一体化したビジネスモデルが強いということが認識として広まっています。

ベンダーロックインを懸念

 一方で、ユーザー企業にとっては、ベンダーが喧伝するほど垂直統合システムの価値をまだ十分に理解していないのが現状です。例えば、データ分析関連の製品だと需要が増えつつありますが、運用・管理関連の製品はまだまだという印象です。ITRの調査においても、垂直統合システムに対するユーザー企業の投資意欲は非常に低いです(図1)

 ユーザー企業に受け入れられない理由として、1つ目に、ベンダーロックインに対する抵抗感が挙げられます。多くのIT部門では、価格交渉をはじめとするベンダーマネジメントが重要な仕事だと考えています。そのため、垂直統合システムを導入してベンダーを絞り込んでしまうのを嫌う企業は少なくありません。

 ただ、ベンダーロックインについては、それが悪いことかどうか、ユーザー自身でよく考えるべきだとITRは提言しています。メインフレームとは異なり、システムの乗り換えや移行は可能ですし、ベンダーを見定めて長期的に付き合っていける価値があるのであれば、前向きなロックインも良いのではないでしょうか。

 2つ目は、製品コストが高いことです。多くのユーザー企業でIT投資が伸び悩む中、導入の初期費用が大きいということは厳しいでしょう。それに対して、ベンダーも低価格モデルの提供を開始するなど、さまざまな施策を講じているところです。

図1 主要なIT動向の重要度指数と実施率(出典:ITR「IT投資動向調査2013」) 図1 主要なIT動向の重要度指数と実施率(出典:ITR「IT投資動向調査2013」)

自社標準を持つべき

 今後、ユーザー企業が垂直統合システムを検討する際、IT導入に関する自社標準を持っているかどうかが重要になってきます。自社の情報システムについて適宜棚卸しをしている企業は、垂直統合システムをすぐに使いこなせるし、価値を生み出すでしょう。その結果、IT部門はシステムのお守りから解放され、より付加価値の高い仕事に集中できるようになります。

 一方で、案件ごとに場当たり的にベンダーやSIerを替えてITシステムを導入しているような企業は、多くの場合、自社標準がないため、仮に垂直統合システムを採用しても、効果を生み出すことは難しいのではないでしょうか。(談)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ