過度な目的思考や強制利用は避けるべき 企業ソーシャル浸透のカギとは?(2/2 ページ)

» 2013年09月17日 11時00分 公開
[伏見学,ITmedia]
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リーダーの不信感が足かせに

――企業のソーシャルメディア活用で、典型的に失敗するケースを教えてください。

 そもそもソーシャルメディア活用に失敗ということはありません。普及率が上がらないことも問題ではないし、5年、10年とかのスパンでみれば、メールやインスタントメッセージのように、時間の試練をくぐり抜けて、徐々に各社の実情にあった活用は進むはずです。

 もし仮に、活用がなかなか進まない、ブレークスルーしないケースがあれば、それは「知識や経験の抱え込みこそが、自分の会社における立場を守り、存在価値を高める」という旧来の価値観を利用者(社員)が払拭できない点にあると思われます。そして、その価値観が払拭できない原因は、実は社員ではなく、責任者やリーダーのソーシャルメディアに対する不信感が根底にあるのです。

 ある企業の情報システム部長からお聞きした話ですが、リーダーの中には、自分の知らないソーシャルな空間の中で、新しい動きが生まれて進んでいったり、自分では理解の及ばない新しい発想が、コミュニティー内の新たなコンセンサスとして浸透していくことを警戒している方も多いようです。そういう価値観のリーダーの下では、なかなか浸透しません。

 一方で、利用がうまく進んでいる企業では、リーダーはソーシャルメディアの活用を後押しする「スポンサー」ではなく、むしろ「ヘビーユーザー」となっています。当社の組織でも、部門長にあたるリーダーが、ソーシャルメディア経由でメッセージを発信しているケースがあります。その場での社員の発信もきちんと見て対応しているため、社員が積極的に使い始めたという経緯があります。

――より具体的なアクセンチュアでの事例を紹介ください。ソーシャルメディア活用を推進、浸透させるためにどのようなことに取り組んだのか、その結果、業務にどのような変化が生まれたのでしょうか。

 比較的早い段階でソーシャルメディアを業務に取り入れたのは、スマートシティなどの分野を担当するサステナビリティ・サービスグループでした。その背景には、このグループが比較的新しいサービスを提供しているため、国や地域に閉じた取り組みではなく、世界中の知見や経験を早く集めて活用することが不可欠な状況だったのです。

 メンバーは国内外のオフィスを移動しながら働いており、日常的なコミュニケーションは主にメールやWeb会議などを使っていましたが、社内SNSの導入後は、それがコミュニケーションの主要なツールとなり、今ではすっかり定着しているようです。

 この活用において、最も重要だったのは、しつこいまでのトップのリーダーシップ。グループのリーダーが自らSNSに頻繁に書き込む一方、メールで受けた質問にはあえて答えないことにしたといいます。つまり、仕事を進めるにはSNSを使わざるを得ないという状況を作り上げたのです。

 こうした活用の進展は、結果的に社内のコミュニケーションを変えただけでなく、“組織の形”にも2つの大きなインパクトを与えることになりました。縦のラインでは、常にトップと現場がダイレクトにつながることで意志決定が早くなり、トップも現場の実態を取り込んだ対応ができるようになました。また横のラインでは、お互いの動きがダイレクトに共有されるため、世界における最新の動向をつかんで、クライアントに提供することが可能になりました。

ソーシャルメディアを使えば、経営トップと現場がダイレクトにつながり、多階層型でサイロ化した組織の形を大きく変えられる(出典:アクセンチュア) ソーシャルメディアを使えば、経営トップと現場がダイレクトにつながり、多階層型でサイロ化した組織の形を大きく変えられる(出典:アクセンチュア)

活用レベルをどこまで高められるか

――今後も企業でのソーシャルメディア活用は普及していくのでしょうか。

 インターネットも電子メールも同じだが、企業での活用の進展と、個人の日常生活での活用は区別して考えるものではなく、ほぼ一体化しているのです。既に個人の日常生活での利用が進んでいることから、企業の日常活動にソーシャルメディアが取り込まれてくるのは自然な流れです。アクセンチュアの見解だけでなく、例えば、IDC Japanの調査結果を見ても、48%の企業が今後数年で「企業内SNS」を利用を開始するという結果が示されている。

 むしろ、これから考えるべき問いは、活用するか否かではなく、活用のレベルをどこまで高めるかの腹決めです。日本企業の競争力を高めようとしたときに、イノベーションは欠かせませんが、そのイノベーションを生み出すのに、社内にある知の融合だけではどうしても限界があります。そのため、ソーシャルメディアの活用も、これまでの社内に閉じた活用から踏み出し、越境型の社内外をつないだ活用も視野に入ってくるでしょう。

 今動きつつあるクラウドソーシングはその端緒を示す動きですが、もう少しミクロに見てみると、例えば米GEが3Dプリンタを使った「航空機用エンジンブラケット」のデザインコンペを開催したように、クラウドソーシングを使う狙いも、これまでのような「よりコストを安くするために活用する」というステージから、「自社や既存の委託先にはない、新たな知や発想を取り込みたい」というステージに移りつつあります。

 過去の知識や発想ではなく、今までにない新しい知と知を融合させることで、新たな価値(市場やサービス)を生み出すことが問われている今、モノやカネだけでなく、ヒトや知恵のネットワークの質をいかに最適化できるか、それも社内外のつながりの中で、いかに自社になかった「引き出し」を持てるかが、企業にとっても、ビジネスパーソンにとっても重要なテーマになってくるはずです。

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