現場で効くデータ活用と業務カイゼン

「iPadでゲームするのも自由」――大阪の物流企業を変えたタブレット活用術とは?導入事例

iPadにゲームアプリを入れてもいいし、自宅に持って帰ってもいい――そんな自由な運用ポリシーでタブレット導入の成果を上げている企業が大阪にある。その取り組みを取材した。

» 2014年04月04日 08時00分 公開
[本宮学,ITmedia]

 企業でのタブレット活用が一般化する一方、「導入したはいいが結局使われなくなってしまった」――といった失敗談も多く聞かれる。こうした中、システム面の工夫と独自の運用ポリシーによってタブレット導入の成果を上げているのが関通(大阪府東大阪市)だ。

 物流アウトソーシング事業を手掛ける関通は、府内に7拠点の物流センターを構え、多くのネットショッピング事業者や通販事業者などの在庫管理/出荷業務を代行している。そんな同社は2013年にiPadを大規模導入し、大幅な業務効率化を実現したという。同社の達城久裕代表に取り組み内容を聞いた。

在庫管理のペーパーレス化を目指してiPadを導入

photo 達城代表

 同社が手掛ける物流アウトソーシング事業では、取引先企業の商品を安全に管理し、必要に応じてスピーディーに出荷する必要がある。このために従来は紙ベースでの在庫管理を行っていたが、以下のような課題を抱えていたという。

 「紙だとどうしても人的ミスが起きてしまう可能性もあるし、最新版の資料がどれか把握するのも難しい。さらに、業務のどの部分を誰が担当したか把握しにくく、従業員が自分の業務を怠けようと思えば怠けることができてしまうおそれもあった」(達城代表)

 そこで同社は、紙に代わる在庫管理の仕組みとしてiPadの導入検討を開始。2012年12月にiPadやFileMaker関連の導入支援を手掛けるU-NEXUSから提案を受けたのをきっかけに、基幹の在庫管理システムと連携するiPad向け棚卸/出荷管理システムを導入、13年2月に本格稼働をスタートした。

 導入したシステムの仕組みはこうだ。カスタムデータベース作成ソフト「FileMaker Pro」で在庫管理アプリケーションと出荷管理アプリケーションを作成し、iPad向けアプリ「FileMaker Go for iPad」に配信。従業員は在庫管理データなどを現場でiPadに入力すれば、その情報が社内ネットワーク経由でFileMaker Proに集約され、リアルタイムで正確な在庫管理を行える――という具合だ。

 同社は現在、従業員約320人のうち約200人にiPadを配布し、このシステムで在庫管理業務を行っているという。システム導入を通じて「在庫をこれまで以上に正確に管理できるようになったほか、従業員1人1人の業務を“見える化”できた。また生産性も大きく向上し、例えばこれまでなら100人で対応していたような作業が数十人でできるようになった」と達城代表は話す。

photo 関通でのiPad配置図

「ゲームをするのも自由」――全従業員がすぐに使いこなせた理由とは?

photo 松岡常務

 関通ではパートタイム従業員を含む幅広い年齢層のスタッフが働いており、PCなどの操作に不慣れなスタッフも少なくなかったという。だがiPadの導入では「PCに不慣れだと思っていた女性スタッフも含め、ほとんどの従業員がすぐに使いこなせるようになった」と同社の松岡正剛 常務取締役は振り返る。

 この背景には、同社の“徹底的に自由”なiPad運用方針があるようだ。「従業員に配布するiPadは全く機能制限をかけておらず、自由に使えるようにしている。例えばゲームアプリやエンタメアプリを自分のお金で入れてもいいし、家庭に持ち帰るのも自由。こうして楽しみながら自然に使い方を覚えていったのだろう」(達城代表)

 端末紛失をはじめとするセキュリティリスクについては、FileMaker Goをオンライン環境のみで使い、端末内に業務データを残さない仕組みによって対策している。「現在は従業員320人のうち約200人にiPadを配っているが、将来的には全従業員に対して1台ずつ配布したい」と達城代表は話す。

システム強化も「社内でできる」 iPad活用ノウハウの外部提供も

 同社は今後もiPadとFileMakerの活用を進めていく方針だ。4月からは作業現場ごとの収支情報をiPadからリアルタイムで入力/集計/閲覧できる「収支日計」システムを新たに稼働させたほか、既存の業務アプリケーションをFileMakerに移行する考えもあるという。

 「これまでは他社製のソフトを使って各種業務アプリケーションを開発していたが、ソフトの使い方が難しく、開発担当者が会社を辞めてしまうとシステムも捨てざるを得ない状況だった。FileMakerなら簡単に業務アプリケーションを作成できるので、社内スタッフだけでシステムの機能追加などを行えるようになるだろう」(達城代表)

 同社はこのほか、一連のiPad活用で得たノウハウを外部企業に販売する新ビジネスにも取り組んでいくという。「当社がiPadとFileMakerの組み合わせでうまくいっているノウハウを、同業/他業界を問わず提供する。これは当社にとって、“モノ”ではなく“コト”を売る新ビジネスになるだろう」と達城代表は話す。

 「もはや当社にとってiPadはなくてはならない存在になっている」と松岡常務。同社は今後もiPadとFileMakerを活用し、業務とビジネスの変革を進めていく考えだ。

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