「クラウド+タブレット」でお年寄りが望む介護を目指す真寿園導入事例

介護老人福祉施設の真寿園は、全国でも珍しいタブレットとクラウドサービスを利用して日々の記録と情報活用に取り組んでいる。

» 2014年05月21日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 一人ひとりの望む介護をどう実現するか――埼玉県川越市の介護老人福祉施設「真寿園」は、2013年12月にMicrosoftのタブレット端末「Surface」を導入し、毎日の介護記録や情報活用のあり方について試行を重ねている。日本マイクロソフトによれば、介護老人福祉施設でのタブレット導入は全国でも珍しいという。

真寿園の外観(左)とユニット内の様子

 真寿園は1977年に開設され、「老人にも明日がある」という事業理念をもとに入居者が「寄り添い」「ゆっくり」「楽しく暮らす」ことを感じられるケアサービスの実現を目指しているという。2002年に竣工した現在の施設は、3階建ての明るいアットホームな雰囲気。1階は地域との交流スペース、2階と3階が入居者スペースとなり、10〜13室程度を1つのユニットとして各ユニットに「本町」「南町」「江戸町」「多賀町」といった町名が付けられている。入居者が従前の生活環境を意識することのできるスタイルを目指したもので、近年はユニット型による介護(ユニットケア)を取り入れる施設も増えている。

 常任理事 施設長の荻野光彦氏は、ユニットケアについて「入居者のニーズにしっかり応えるためには、フロア全体といった大きな単位では難しく、一人ひとりを深く知ることが大事」と話す。ユニットケアではケアワーカーを中心に入居者の生活を記録し、毎日の介護に情報を役立てているという。

 荻野氏によれば、介護の記録と活用は20年以上前から取り組んでいるものの、紙ベースでの入力や共有では手間がかかることからOA化に着手。施設内にサーバを構築して、PCによる入力と閲覧などをできるようにした。2012年には蓄積される情報量の増大とサーバの維持コストの増加を解決するため、Azureによるクラウドベースのシステムへ移行。ただし、PCではきめ細やかな情報の入力に課題があり、その解決策として注目したのがタブレットだったという。

ケアプランを記した書類の一例。現在は保管に利用しているが、紙ベースでは記入や参照に制約を伴う

 真寿園の介護記録管理システムは静岡市のブルーオーシャンシステムが手掛ける。同社はWebベースの「Blue Ocean Note」を開発、PCのWebブラウザやタブレット向けにはWindowsストアアプリとしても利用できるようにした。代表取締役の寺岡正人氏は、「情報を本当の意味で利活用できるシステムを実現すべく、真寿園を始め福祉の現場からの様々なフィードバックを製品に反映している」と語る。

 例えば、同システムの帳票ライブラリでは業務内容に応じて容易にカスタマイズできるのが特徴という。クラウドベースのシステムではなるべくパッケージを利用する傾向にあるものの、介護の現場では長年のノウハウをベースに帳票が作られており、パッケージのままでは使いづらい。

タブレットで表示した介護記録の帳票イメージ。タップやスワイプ操作で参照したい情報にすばやくアクセスでき、記入もしやすい。別のウィンドウを呼び出して詳細な情報の入力や閲覧もできる

 荻野氏によれば、クラウドに移行したことでシステムのTCOを3割ほど削減できた一方、帳票の利用方法を大幅に変更する必要がなく、情報の集計や処理、閲覧などの使い勝手が大幅に高まっているという。カスタマイズ性を意識したシステムであれば、クラウドベースであってもコスト増を招くことなく、システムを拡張したり処理能力を高めたりといったクラウドならではの柔軟性や俊敏性といったメリットを享受できるようだ。

 介護記録は、起床からや食事、入浴、就寝までの1日の様子や健康状態、医療など多岐にわたり、ケアワーカーや栄養士、相談員など様々な担当者が入力する。入力の頻度は入居者1人あたり1日に数十回にもなる。端末は各ユニットに数台ずつ設置されているが、入力や処理作業の度に入居者から離れなくてはならない点に課題があり、入居者と接する時間をより多く確保する目的で、3台のSurfaceを試験的に導入した。

 現在は各担当者が必要に応じてSurfaceを携帯し、入居者の傍らで記録をしている。ユニットリーダーを務める介護福祉士の黒川靖子氏は、「入居者と会話をしながらその場で手軽に記録し、情報も簡単に確認できる良さを実感している」と話す。

PCでの入力や閲覧も早いが設置場所へ移動する必要があり、タブレットならその場から利用できる。1日に何度も利用するとなると、その差は仕事に大きく影響する

 タブレット上ではWindowsストアアプリを活用する。手元からすばやく記録できるよう入力項目をなるべく選択式にすることで工数を減らし、後から詳しい情報を文字入力するといった利用スタイルだ。タッチやスワイプ操作で入居者一人ひとりの記録をすばやく確認し、ケアに役立てている。入居者1人の1日の記録時間もPC入力に比べて1時間ほど短縮され、業務面でも大きな効果を生み始めた。

 クラウドやタブレットを導入・活用するようになったことで、真寿園が目指す介護スタイルの実現にさらに一歩近づいたようだ。施設ケア部長の平山政浩氏によれば、情報の内容がきめ細かく豊富になったことで、入居者の家族にも入居者の日々の様子を詳しく伝えることができるようになり、ケアプランの改善をはじめとするサービスの質の向上にもつながると期待感を寄せる。

 荻野氏は、「蓄積される情報は介護にとって不可欠なものであり、スタッフのスキルやノウハウの向上に貢献します。在宅時とホームでの介護の状況を情報でシームレスにつなぐといった活用にも取り組みたい」と話している。

真寿園の平山氏、黒川氏、荻野氏とブルーオーシャンシステムの寺岡代表(左から)

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