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» 2014年09月20日 08時30分 UPDATE

宇宙ビジネスの新潮流:宇宙とITの交差点に巨額の投資マネーが動く

GoogleによるSkybox Imaging買収が好例であるように、衛星分野は宇宙ビジネスにおいてホットな領域である。特に注目すべきなのは、この衛星分野でIT技術の役割が大きく広がっているのである。

[石田真康(A.T. カーニー),ITmedia]

 前回は、米Googleや米SpaceXといったベンチャー企業が宇宙ビジネスに投資し、マーケットをけん引していることを紹介した。

 そのGoogleが約5億ドルで米Skybox Imagingを買収するなど衛星分野は宇宙ビジネスで最も盛り上がっている領域の1つである。ここ数年、衛星分野に関しては、小型化と低コスト化が進み、50キログラム級以下のマイクロ・ナノ・キューブ衛星の開発が活況を呈してきた。併せて進んでいるのがコンステレーションという複数の衛星群を全体システムとして機能させる手法である。こうした技術トレンドは特に地球観測およびリモートセンシング用途として進んでいる。近年ではこの分野でIT特有の開発手法やアナリティクスとの融合が一気に進み始めているのだ。

 最初に、開発手法とシステム設計の融合を紹介したい。米Planet Labsは2010年に元NASAのエンジニアたちが創業した超小型衛星ベンチャーであり、既に数十億円をDFJ Ventureなどのベンチャーキャピタル(VC)から調達し、28機からなる分解能3〜5メートルの地球観測用システムを構築している。

 彼らはITmedia エンタープライズの読者であれば馴染み深い “agile development(アジャイル開発)”を衛星開発に適用している。そのために、専用設計でないカタログ品を活用するほか、放射線対策や熱対策などの宇宙環境対策が行われていないが技術進化の著しい民生用電子部品の適用も進めていると言われている。実際、創業からわずか数年の間に衛星のバージョンを10回もアップデートしており、今年開かれたカンファレンス「NewSpace 2014」でもウィル・マーシャルCEOが“agile aerospace”のプレゼンテーションを行った。

 その背景にあるシステム設計も特徴的だ。Planet Labsでは複雑で寿命の長い単独衛星ではなく、単純で寿命が短い量産衛星による衛星群を構築し、個々の衛星の寿命が尽きる前に、アップデートされた新規衛星を打ち上げ、随時リプレースしていくことで、システム全体としての低コスト化と高機能化を実現しようとしている。

 もう1つ、ITとの融合が進んでいるのが、ビッグデータなどのアナリティクス領域だ。米Skybox Imagingは、将来的に24機からなる高分解画像(1メートル)および動画の地球観測用システムを構築中である。これが完成すれば地球全体の画像を高い解像度で1日数回取得できるようになる。彼らは自社の強みをデータアナリティクスプラットフォームと定義しており、分散処理基盤「Apache Hadoop」を画像データの貯蓄、解析、処理に活用している。Hadoopはかつて2004年にGoogleが発表した大規模分散並列処理のためのプログラミングモデル「Map Reduce」をベースに、Apache Software Foundationがソフトウェアの形で公開したものだ。

 また、彼らのデータプラットフォームは自社衛星のみでなく、ほかのセンサー(無人航空機やほかの衛星)からの画像データも統合することを視野に構築されている。このように、彼らの事業のコアは、衛星や画像そのものに加えて、その解析技術と解析結果から導き出される意味付けにある。

 GoogleによるSkybox Imagingの買収の狙いは何であろうか。Googleは今年4月に無人機(ドローン)企業のTitan Aerospaceも買収しており、双方の案件とも、これまで米DigitalGlobeと提携していたGoogle Mapsの精度向上、あるいはProject Loon(インターネットアクセス拡大を目指すプロジェクト)が目的と言われている。

 他方、将来的な発展可能性は何であろうか。Skybox Imaging自体が「我々は経済情勢に対する理解を根本的に変えるだろう」と語っているように、同社のシステムは、リアル社会のヒトの動き、モノの動きなど経済活動を俯かんしてとらえる可能性があり、それは社会活動全般の未来を予測する力やリスクをヘッジする力へと繋がっていく可能性がある。

 Googleは近年、ロボット分野(日本のベンチャー企業であるSCHAFTの買収など)、自動運転分野(Google Carの開発など)、家庭電力制御分野(米Nest買収)など、Web領域を超えて、リアル社会における情報の体系化と知能化に積極投資をしている。Skybox Imagingのシステムはこうしたリアル社会の知能化を次なるステージへと引き上げていくであろう。

 また、米国では「Small Satellite Conference」など多数の会合でこうしたシステムの利活用が議論されている。実際、グローバルサプライチェーンを保有する企業にとって有益な可能性があり、例えば、農業、飲料、食品企業が原材料や農産地の管理高度化の観点から、こうした衛星データおよびその解析技術を活用することに興味を示し始めているのである。

著者プロフィール

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石田 真康(MASAYASU ISHIDA)

A.T. カーニー株式会社 プリンシパル

ハイテク・IT業界、自動車業界などを中心に、全社戦略(中計策定支援、ポートフォリオ戦略、シナリオプランニング)、事業戦略、R&D戦略、オペレーション改革等を支援。

東京大学工学部卒。主要メディアへの執筆のほか、自動車・機械・電機メーカーを対象とした講演・セミナー多数。政府系機関のワーキンググループ委員等。著書に「電気自動車が革新する企業戦略」(日経BP社09年刊、共著)

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