Watsonが提案したメニューは、生江氏にとって“意外性があった”そうだ。「肉料理ではホースラディッシュのソースをWatsonから指示されましたが、この店に来てからほとんどホースラディッシュという食材は使ったことがなくて。他にもカブにインゲン豆やレタスを合わせるとか、自分では考えつかない組み合わせが出てきて楽しかったです」(生江氏)
生江氏はイベントの依頼を持ちかけられた当初、「人工知能と人間の感情が重なり合うのか」という点に疑問を持っていたそうだ。しかし日常生活にテクノロジーが溶け込んでいる現状を考えると、違った考えに至ったという。
「コンピュータ対人間、というような対立的な発想ではなく、両者が一致団結してよりよい社会が実現できるのではないかと考えるようになりました。料理というのは経験則でしかレシピや調理を思いつかない部分があります。今回Watsonを使ってみて、違うシェフの下で働いたような感覚で新鮮でした」(生江氏)
Watsonが目指しているのは、経験的な知識に基づく“コグニティブ”(認知的)なコンピューティングシステムだ。今回の取り組みについて、日本IBMでWatsonの戦略を担う元木剛氏は、Watsonで人間の複雑な思考を再現することを目指し、人間の認知能力を拡大していく試みだと話す。
元木氏によると、コグニティブ・コンピューティングによる認知能力は4段階に分けられるという。百科辞典的な知識を活用する“アシスト”、モデルを作って推論する“理解”、証拠に基づいて専門的な判断をする“意志決定”、新しい知見を発見し、価値を生み出す“発見”だ。Chef Watsonによるレシピ検索は、新たな食材の組み合わせを提案する点で「発見」というレベルの行為だ。
「Chef Watsonは既存のレシピから得た無限の組み合わせによって、新たな味を導き出せます。コンピュータによって、料理という創造的な活動を支援することが目的です。人間が必要なくなると考える人もいますが、コンピュータは万能ではありません。人間の行動を支援するエージェントとして、今後はあらゆるものに組み込まれ、人間との対話を通して活躍するでしょう」(元木氏)
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