リコー“3Dプリンタ事業”の快進撃を支えた「クラウド×Webマーケ」人を使わない営業活動

複合機やデジタルカメラといった事業を展開するリコーが、3Dプリンタ事業に参入して注目を集めている。新たなビジネスチャンスを追う同社だが、新領域の製品を取り扱うにあたって、営業活動がうまくいかないという問題も起きた。

» 2015年04月15日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]
photo リコー ビジネスソリューションズ本部 セールスプロセス改革室 湊亮氏

 ビジネス向け複合機やデジタルカメラで身近なブランドである「リコー」が注目を集めている。2014年秋に3Dプリンタ事業に参入、機器販売のほか、導入コンサルティングや3Dデータの設計、3D造形といったさまざまなサービスを展開しているのだ(参考記事)。

 事業参入発表時(2014年9月8日)には1182.5円だった株価も1354.5円(2015年4月14日現在)にまで伸びるなど、老舗企業の新たな挑戦に市場から大きな期待が寄せられている。しかし、この3Dプリンタ事業を始めたことで、同社の営業活動に問題が起きた。

 3Dプリンタ事業の顧客は製造現場が中心で、従来の複合機事業とは顧客が異なる。同社は訪問営業を中心とするスタイルで、「取り扱い商品と訪問先が一気に増加したことで、営業の負荷が大きくなってしまった」(リコー ビジネスソリューションズ本部 セールスプロセス改革室 湊亮氏)という。

デジタルマーケティングで効率的な営業を

 訪問営業が行き届かないため、3Dプリント事業に興味を持った顧客はWebページや展示会などで情報収集を行っているのが現状だった。引き合いの窓口が必要だと判断した同社は、デジタルマーケティングで効率的な営業を行う方針を固めた。

 リコーにおけるデジタルマーケティングの基本戦略は、Web上でのマーケティング活動で得た顧客情報(リード)を営業に渡し、対面営業へ導くものだったが「営業がその情報を生かしきれずに商談機会を逸してしまうことが問題になっていた」と湊氏は話す。

photophoto 3Dプリンタの場合(写真=左)、商品購入までの顧客の行動パターンが既存の複合機ビジネス(写真=右)と大きく異なるという

 そこで同社は顧客の検討フェーズに合わせ、ニュースリリース、特設Webページ、Web広告、セミナー、モニターキャンペーンといったさまざまな施策を展開。Web上の活動だけで“見込み客”を生み出せるようにプロモーション全体を設計した。このデジタルマーケティング戦略が奏功し、100件を超える問い合わせがあったそうだ。

 キャンペーンの設計には、マーケティング自動化支援のクラウドアプリケーション「Oracle Eloqua」を利用した。キャンペーンフローやオンライン行動履歴の管理、見込み客のスコアリング、分析といった一連の機能をSaaSとして利用できるもので、「お客様の行動によって購入の見込み度をスコアリングし、スコアごとにさまざまなアクションを指定できるほか、あらかじめ設定したタイミングで自動で施策を実行できる点」(湊氏)を評価しているという。

photo Oracle Eloquaの利用イメージ

営業の“役割”が変わっていく?

 3Dプリンタ事業のプロモーション活動から、営業経由よりもデジタルマーケティング経由で得た商談の方が決定率が1.7倍高いということが分かった。「Web経由で問い合わせたお客様は、購入意欲が高いため短期間で案件の決着がつく」(湊氏)という。今後もデジタルマーケティングと訪問営業という基本スタンスは変えないが、よりデジタルマーケティングの比率を上げていく構えだ。

 また、デジタルマーケティングでは営業の役割が変わると湊氏は話す。従来の営業スタイルでは、営業は見込み客を“発掘”する役割を担っていたが、デジタルマーケティングを使う場合、見込み客を見出すのはWebやメールや電話だ。営業は受注(契約)の段階でしか関わらないため、彼らの負担も軽減できる。

 今後はさらなるデジタルマーケティングの活用を目指し、他の商材やソリューションへの展開、イベント連携、案件化の仕組み作りなどに注力していくという。「デジタルマーケティングを広めていくためには、さらにノウハウを蓄積し、人も育てていかなくてはならない」(湊氏)

photo デジタルマーケティングを使う場合、見込み客を見出すのはWebやメールや電話であり、営業の負担は少なくなる

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