ライオンとリコーが伝授、ビジネスを変えるデータ基盤の作り方(2/4 ページ)

» 2015年06月22日 08時00分 公開

世界中から集まる複合機の稼働データを解析

photo リコー 経営革新本部 情報インフラ統括部 インフラオペレーショングループ シニアスペシャリスト 宮腰寿之氏。セミナーの事例講演で同社のデータ活用の取り組みを説明した

 複合機やプリンタなどを中心とするOA機器大手のリコー。同社が強いのはハードウェアだけではなく、ソフトウェアを中心としたサービスでも先進的な取り組みを行っている。その代表といえるのが、ユーザーの企業内に設置された複合機の稼働状況をリポートする「@Remote」サービスだ。

 Web経由でリアルタイムに機器を監視し、プリント枚数やトナー残量、印刷設定などの情報を収集し、ユーザーの管理者に報告する。これにより、なくなりそうになったトナーを自動で配送したり、遠隔で保守診断を行うサービスを展開している。昔であれば、営業部隊が訪問して機器の調子を聞いていたところを自動化したのだ。

 そして、リコーは@Remoteのさらなる活用を考え始めた。@Remoteには、世界100以上の国や地域に設置されている機器の約6割、数百万台ぶんの情報が集まっている。このデータを解析することで、何かできないか――そんな課題が降りてきたのが始まりだったという。

 「ちょうど社内でもデータ分析専門の部署ができ、データ分析を事業に生かせないかとさまざまなプロジェクトが走っていたころでした。中でも、費用対効果という面で@Remoteが最も有望だったのです」(リコー 経営革新本部 情報インフラ統括部 宮腰寿之氏)

 当時、ユーザーから通知データをもとに機器の障害を未然に検知したり、品質予測を行えないかという要望があり、部門独自でデータ分析環境を構築していたという。保守点検を最適化して訪問件数を減らしたり、機器がダウンしている時間を減らすなど、顧客満足度の向上を狙った取り組みであったが、そこには大きな課題があった。

 「@Remoteを扱う環境は各部門が独自に構築しており、個別に所有していたのは、Excelに少し手を加えた程度の小さな分析システムでした。容量や性能が不足していたため、一部の機種しかデータ解析ができず、なかなか活用が進まなかったのです」(宮腰氏)

 例えば、ある機種に限定したシステムの場合、データ容量は約25Gバイトで、約2万5000台分のデータを加工するのに30分かかっていたそうだ。しかし、これを国内全体の複合機に広げようとすると、データ量が約35倍(870Gバイト)となる計算で、解析に時間がかかりすぎてしまう。その上、部門別でシステムを持っていたため、分析結果を他部門と共有できないことや、分析から得られた知見をサポートに反映させる仕組みがないという問題もあったという。

 そこで同社は、@Remoteの情報を一元化し、各部門から共同利用できる環境を用意することで、グループ全体でデータを有効活用できる仕組みを構築することにした。「経営陣からも“クラウドがいいらしい”と言われた」(宮腰氏)こともあり、クラウドの利用を念頭に、システム構築を始めた。

 新システムはスモールスタートを想定していたこともあり、Linuxサーバやプライベートクラウドを利用することで、コストを抑える構成を採用。データの収集から分析を行う「ODS」(オペレーショナルデータストア)と、効率よくデータ分析を実施する「CWH」(セントラルウェアハウス)という2つのシステムを構築し、分析結果を保守サポートサービスに反映させるBIツールも導入した。

photophoto 新システムの構成(左)とバックアップ構成(右)。バックアップはローカルレプリケーションを採用している

 想定を超えたデータ量のせいで、バックアップの処理速度が低下するといったトラブルにも見舞われたが、ディスクシェルフの構成を工夫するなどして乗り越えた。その後、2015年1月から本格稼働を開始。本格的な運用を開始して5カ月ほどではあるが、高速な解析処理が可能となり、日々大規模なプログラムが走っているという。データ分析で得られた分析モデルを自動化し、セールスやサービスの現場ですぐに生かせるようになる仕組みも構築しているそうだ。

 「ストレージの利用量について“3年後に30Tバイトくらい”と予測していたのですが、4カ月ほど経過した時点でもう40Tバイトになっていました。もう3年後にはどれくらいの容量になっているか想像もつきません。近い将来、CPUやディスクも追加していくことになるでしょう」(宮腰氏)

 さらにリコーでは、組織的にデータサイエンティストの育成を進め、ビジネス品質の向上をさらに追求していく構えだ。データを基点に分析を繰り返し、意思決定していく文化を社内に醸成させるための「データコンシェルジュ」という社内向けサービスも立ち上げたという。分析アプリケーション構築のアドバイス提供など、データ分析による業務課題解決の推進をサポートする部門だ。

 「現場やユーザーは、どのデータをどのように組み合わせればいいかという点で分析につまづいてしまうケースが多いです。ビジネスではツールやハードそのものよりも、それをどう使いこなすかという運用の仕組みが大切になります。しかし、運用の仕組みを整え、ユーザーがそれを使いこなせるようになったとき、またハードのスペックが求められるようになるのです」(宮腰氏)

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