大手航空会社のJALがここ最近、ウェアラブルデバイスからIoT、ロボット活用とさまざまな実証実験を続けている。なぜ次々と実験を行っているのか。そして、数々の取り組みを通じてJALが目指す、IoT時代の「おもてなし」の姿とは。
あらゆるデバイスがネットワークにつながる「IoT(Internet of Things)」。センサーで取得したデータから新たな知見を得ることで、ビジネスを一変させる可能性を秘めたトレンドだが、日本で本格的にIoTをビジネスに取り入れようと動く企業はまだ少ない。
この新たなトレンドが自社のビジネスにどんなメリットをもたらすのか――。未知の領域だからこそ、積極的に模索する必要があるこの分野に、果敢にチャレンジしているのが大手航空会社の日本航空(JAL)だ。ここ1〜2年で先端技術を使った実証実験を立て続けに行っており、その領域もウェアラブルデバイスからIoT、ロボット活用と幅広い。なぜこうも、次々と実証実験を行えるのだろうか。
JALが先端技術の活用に乗り出したのは2014年のこと。NRI(野村総合研究所)と協力し、米ハワイのホノルル空港で「Google Glass」を業務で活用する実証実験を行ったのがきっかけだ。整備士などの実務スタッフがGoogle Glassを装着し、航空機の整備や貨物の搭降載作業を行うという内容で、システムの検証やイメージビデオの制作を行った。
「実は当初はキャビンアテンダント(客室乗務員)にも装着してもらおうと考えていたのですが、画面を見るために目線が上に向き、お客さまを見れなくなるという理由から却下されました」(日本航空 IT企画本部 次世代技術企画グループ 小磯貴之さん)
整備中の様子を画像で成田空港のサポートチームに送信し、ダブルチェックを行うといった実践的な業務フローにGoogle Glassを組み込むことで分かった課題も多い。整備中には“完全な”ハンズフリー入力が求められることや、ネットワーク環境、バッテリー、雨天時の対処など、導入検討に必要な知見を多く得られたという。
Google Glassで一定の成果を得たJALとNRIは続いて、スマートウォッチとBeaconの活用実験を実施。空港スタッフへ遅延や欠航情報をリアルタイムで伝達するほか、Beaconでスタッフの居場所を把握して、適切に人員を配置できるようコントロールするといった実験を行った。
現状では、空港スタッフの連絡はトランシーバーで行っており、スタッフの配置をリアルタイムで把握しにくいという難点がある。このシステムは、コントロールデスクにいる担当者が各スタッフと通話せずとも居場所を確認できる。スタッフを指定してメッセージを即座に送れるため、短い時間で指示が可能になる。
実証実験を通じて業務上の成果は確認できたものの、当時は1人につき1台のスマートウォッチを準備するのが難しく、共用にすると衛生上の不安があることから、正式導入については保留になったそうだ。そして2015年、実証実験のテーマはウェアラブルから徐々にIoT分野へとシフトしていく。
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