トップアスリートの世界では、選手やコーチに加えて分析スタッフも勝敗を分ける重要な存在だ。その裏にはアスリート用の映像データベースを構築している人々がいる。日本のメダルを支える力はこんなところにもある。
リオデジャネイロオリンピックの開催まで約1カ月となった。各競技の代表選手もそろい、本番に向けて本格的な調整が始まりつつある。トップスポーツの世界では、選手やコーチに加えて分析スタッフも勝敗を分ける重要な存在だ。
彼らは対戦相手の研究や選手のフォーム見直しなど、各種データや映像を駆使して選手が最大限のパフォーマンスを出せるように動いている。こうした競技など映像を1カ所に集めてデータベース化している組織がある。国立スポーツ科学センター(JISS)だ。
「データベースに入っている競技映像の数は、日本は世界でもトップクラス」――そう話すのは、JISSの情報システム部門で、スポーツ映像データベースを担当する三浦智和さん。運用10年目に入ったデータベースの生い立ちとその活用方法を聞いた。
分析のために競技映像を保存する取り組み自体は、各競技で昔から行われていたという。「しっかりとした競技団体なら、科学班(分析チーム)があるケースがほとんど。各種目の日本代表チームもそうです」と三浦さん。
しかし、今のようにWeb上などで動画を見られなかったころは、科学班が大量のVHSビデオテープを持ち歩いていた。特に海外遠征などでは、必要なものを選んでいくつものトランクに詰めて持ち歩くなど、苦労も多かったそうだ。
時代とともにビデオテープがDVDに変わり、容量や重さの問題は解決されたが、データの整理という点では課題が残る。見たいシーンをすぐに見られるようにするには――。そんなニーズから、2006年にスポーツ映像データベースシステム「SMART-system」が稼働した。大会名や種目、レース、競技者といったメタ情報を動画に加えることで検索性を担保。Web経由で動画を検索し、視聴できるWindows用ソフトも配布した。
柔道や卓球、シンクロといった競技から利用が始まり、他の競技にも広がっていったが、スポーツ界ではMacを使う人が多いことから、2011年にはWebブラウザ上で使えるシステムを開発。Macに加えてスマートフォンやタブレットでも利用できるようになった。
2016年にはiOS、Android用アプリ「JISS nx」をリリース(現在のところアプリストアでの配布はしていない)。ブラウザ版で実装できなかったコマ送りや区間リピートといった機能を復活させ、動画のダウンロード機能も追加した。
「遠征先ではネット環境が悪いこともあるので、オフラインでも使えるようにしてほしいという要望はありました。スキーなど山に入っていくような、ウィンタースポーツはなおさらです。回線の早さによってビットレートを自動で変える機能も搭載しています」(三浦さん)
こうした改修の繰り返しによって、ユーザーやデータ数も増えてきた。2016年3月末時点で、33種目に関わる約4500人が利用しており、45万件の映像データが格納されている。三浦さんによると、これは世界でもトップクラスのデータ量とのことだ。ところがデータが増えたことから、運営面で大きな問題が出てきてしまった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.