“ITソムリエ”を目指してTBWA HAKUHODOの情シスがやっていること(1/2 ページ)

博報堂とTBWAワールドワイドのジョイントベンチャーとして設立された総合広告会社、TBWA HAKUHODOは今、情シス改革の真っ最中だ。現場視点で課題を解決し、生産性を高めていくために、情報システム部門はどんな取り組みをしているのか。総務部の部長を務める古川健司氏に聞いた。

» 2016年10月18日 08時00分 公開
[御手洗大祐ITmedia]

 TBWA HAKUHODOは、2006年に博報堂とTBWAワールドワイドのジョイントベンチャーとして設立された総合広告会社だ。常識を壊し、既成概念にとらわれることなく新たなヴィジョンを見出すことを目指した「DISRUPTION」という経営哲学を掲げ、そこから生まれた広告は数々の賞を受賞している。

 そんなTBWA HAKUHODOの総務部が今、取り組んでいるのがITを使った社内改革だ。生産性を高めるために、情報システム部門は現場とどのような形で接点を持ち、どんな方法で課題を解決しているのか。同社事業推進室 総務部の部長を務める古川健司氏に聞いた。

Photo TBWA HAKUHODOのWebサイト。伝説のディスコ「ジュリアナ東京」をオフィスにリノベーションしたことは当時話題になった

作業のムダを減らし、本業に専念するための環境作りをクラウドで

Photo TBWA HAKUHODO 事業推進室 総務部の部長を務める古川健司氏

―― ITチームを統括する総務部長としてTBWA HAKUHODOの業務現場をどのように変えたいと考えていたのでしょうか。

古川氏 “PCの作業は本社のみ”というレガシーなワークスタイルはではなく、取引先やプロダクション、サテライトオフィスなど、セキュアな場所であればどこにいても仕事ができる環境を目指していました。

 オフィスに縛られることなく仕事や仲間とのコミュニケーションができれば、社員は移動などのすきま時間を活用したり、訪問先で打ち合わせと編集作業を同時に行ったり、効率的に仕事ができる。そこから創出された時間で、仕事の質を高めたりプライベートを楽しんだりできると考えていました。

―― “いつでもどこでも働ける環境”を実現する上で着目したのが、クラウド活用だったということですね。

古川氏 そうですね。当時のITチームの限られたリソースの中でベストな方法を考えたら、自然とクラウドに行きつきました。

 ITチームは、いわゆるITインフラの運用保守やユーザーサポートなど従来の業務がある一方で、生産性とセキュリティを高めるシステム環境作りも考えなければならない。限られたリソースでそれを行うとしたら、「設計開発し、インフラを整備し、ローンチする」といった従来の手法ではなく、既にサービスや機能がそろっているクラウドを利用すればいい、と考えたのです。

 自社要件に合ったシステムを開発するより、既にあるサービスが当社にマッチするかを探して検討した方が早い。今では、まずクラウド(SaaS)を検討し、IaaS/PaaSでの構築はどうか、どうしても無理ならオンプレで――という順序で導入を検討しています。

 スマートフォンとクラウド型のグループウェアを全社導入したことが、働き方を変えました。例えばグループウェアを導入するまでは、メールや対面でミーティングの時間調整をしていたんです。調整役の社員にとっては非効率な作業でした。リスケともなれば、また再調整です。それが今では、相手の予定を確認してインビテーションを送るだけで済みます。

 また、クラウド型のワークフローを導入した時は、現場はどこからでも申請が可能になりました。承認する上長も、どこにいても内容確認して承認できます。

 これは、「申請や承認をするために会社に戻る」「上長がなかなかつかまらないから申請を提出できない」といった状況を打開したわけです。

クラウド活用を浸透させた立役者は

―― どのような方法でクラウドを現場に浸透させたのですか?

古川氏 ITチーム主催の講習より効果があったのは、社内のデジタルに強いエバンジェリストや新しモノ好きの人達が、便利な使い方、効率的な使い方を広め、それを便利だと思った人たちが使うようになって拡散し定着していく――というパターンです。

―― 管理する側として、いろいろな使い方が自然発生的に広まっていくことに対する不安はありませんでしたか?

古川氏 情報セキュリティリスクがあるもの以外、基本的には“サービスの機能を絞る”ことはしていないんです。データの共有範囲については、ドメイン内のみに制限しているので、ファイルサーバやスケジュールの共有機能は社員同士のみの利用になりますが、社内で利用できるサービスは特に制限していません。制約が“あり過ぎる”とただのメールツールに成り果てますからね。

 また、会社としてのルールとマニュアルは作成し社内公開しています。グループウェアに付属するWebサイト構築機能を利用して「Rule & Manual」を整備し、そこに情報を集約しています。グループウェアの使い方にとどまらず、社内ルールや業務系のマニュアルも掲載しているので、迷ってもここにアクセスすれば解決できるようにしています。

―― クラウドサービスを選ぶ上で重視しているポイントは?

 機能や仕様もチェックしますが、特に重視するのは、「スマートフォン対応であるかどうか」と「使いやすいUI・デザインかどうか」ですね。ワークフロー選定で例えると、一般的なフォルダ形式でカテゴリーが表示され、簡易なスクリプトで組まれたような書式があって――というような古い型のインタフェースが、イノベーティブな社員に受け入れられるか? ということです。

 今は、「機能が備わっていれば見た目は大して問題にならない」という時代ではないと思うんです。「使う人のマインドに響く、使いやすさ、見易さをもったインタフェースなのか」を自ら検証し、自信を持って提案しないと、社内で普及しないと思うんです。どこかに、「なんかちょっとこれ、イマイチなんだけど……」という思いがどこかに残っていると、誰かにツッコミを入れられた時に、やはり一歩ひいてしまうものです。

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