なぜ、京王電鉄は「AIベンチャー」を立ち上げる必要性があったのか?【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(1/4 ページ)

クラウド導入やシステム内製化など、京王グループのシステム分野に“スピード改革”をもたらしている虻川さん。今はAIベンチャーの社長も務めているが、立ち上げの裏にはレガシービジネスならではの危機感があったという。

» 2018年09月14日 07時00分 公開
[高木理紗ITmedia]

 2018年5月に、電気通信大学の坂本真樹教授と共同で、感性とAIを活用して企業の製品開発やマーケティングに生かすベンチャー企業「感性AI株式会社」を立ち上げた京王電鉄。

 鉄道とAI、という組み合わせがやや意外に聞こえるかもしれないが、「AIやIoTを生かしたデジタルディスラプターに攻められる側の“レガシー”な企業体だからこそ、ITを活用してさまざまなことに取り組んでいることを知ってもらいたい」と語るのが、感性AIの社長と京王電鉄のIT管理部長を兼任する虻川勝彦さんだ。

 虻川さんは、1995年にSIerから京王電鉄に転職して以来、既存システムの改善から通信事業の立ち上げ、グループ横断で取り組んだCFT(クロスファンクショナルチーム)での沿線価値向上施策など、多岐にわたる業務を経験してきた。その後、グループ会社の京王バスに異動した虻川さんは、システム刷新プロジェクトを契機に、エンタープライズITに対する考えを大きく変えることになる。

「ないない尽くし」からのシステム変革、予算ゼロからのスタート

 2011年に京王バスに異動した当時の社内システムは、約30年前にオフコンで自社開発したシステムを残しており、「社内の人間でさえ、どこがどう動いているか分からないものもあった」(虻川さん)という。

 「データ連携を考慮していない個別最適システムも多く、社内の至るところで重複した業務が発生していました。そのために生産性の大幅な低下も見受けられましたが、システムをメンテナンスできる人材は既に異動、退職している状態でした」(虻川さん)

 加えて、新システムの導入に予算を割くのもなかなか難しく、現場では複雑なExcelを作って業務を回しているケースもあった。また、ファイルが壊れる、システムとのデータ不整合が発生するなど、業務品質も目に見えて低下していたそうだ。

 お金もリソースもない――まさに“ないない尽くし”の状況に悩んでいた虻川さんが出会ったのが、サイボウズの業務アプリ開発プラットフォーム「kintone」だった。ちょうどそのころ、警視庁から遺失物の届け出をデータで受け入れたいとの要請を受け、それまで紙ベースで行っていた遺失物管理をシステム化するための予算が付いたのも後押しになった。

photo (画像提供:京王電鉄)

 「kintoneで遺失物管理システムを作れば、その後に他の業務もシステム化できます。サブスクリプション型のサービスなので、アプリを作れば作るほど投資対効果が増すと考え、30日間の“無料お試し期間”でデモ用アプリを組み上げて役員から導入の承認を得ました」(虻川さん)

 kintoneの導入によって、社内のシステム担当部署では「ユーザーと打ち合わせをしている最中に使えるアプリを作り上げるくらいのスピード感が生まれた」と、虻川さんは話す。

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