クラウド時代に向けて、情シスの在り方を見直せERPリノベーションのススメ(9)(3/3 ページ)

» 2010年07月29日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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クラウド時にこそ求められる、情シスの真の役割とは?

 さて、いかがだったでしょうか。今回の事例のポイントは3つあります。1つ目は「ベンダが提案するままにシステムを作り続けていると、IT費用の大半を自らコントロールできなくなる」と気付いたことです。システム運用のノウハウを吸収するなど、ベンダを“活用”するのは大切なことですが、“ベンダ任せ”のスタンスは、事例のように、システム数の増加と、運用の作業負荷増大、自社要員のスキル不足などを招き、結果として情報システム部門の弱体化につながってしまいます。今回の事例では、そのことに気付き、構築・運用の在り方から見直す“抜本的改革”につなげた点に、大いに意義があるというわけです。

 2つ目のポイントは、運用コストと作業負荷を低減する手段として、新技術であるクラウドコンピューティングに着目したことです。新しい技術である以上、必ず事前検証を行うなど、導入には慎重になる必要がありますが、さまざまなITリソースを「必要なときに、必要な分だけ」利用できることは、システム構築・運用の効率化を図るうえで、非常に大きなメリットをもたらしてくれます。

 また、開発や運用をクラウド環境上でスピーディに行えるため、ネットワーク環境さえ確保できれば、ガバナンスを効かせながら、必要なシステムをスピーディに展開したり、海外と日本で同じシステムを共同利用したりすることができるといったメリットもあります。こうしたことから、筆者がコンサルティングを担当しているある顧客企業では、「中国などの新興市場において、状況に応じてスピーディかつ柔軟に拠点展開を行うために」クラウドサービスの利用に乗り出しています。技術として新しい分、まだ導入のハードルは高めではあるものの、先進的な企業ほど、ERPや生産管理システムをはじめ、基幹系への利用も積極的に検討しているのです。

 そして3つ目のポイントは、I社が“その場限り”の対策ではなく、あくまで構築・運用の“抜本的な改革”にこだわったことです。これが今回の事例の最大のポイントと言えます。というのも、多くの企業にとって、たとえIT資産の棚卸しや「システムと運用業務の仕分け」を行い、無駄に気付けたとしても、構築・運用の“改革”に踏み出すことまではなかなか難しいものだからです。

 では、なぜI社がそこまで踏み込むことができたのか?――それはやはり、IT資産の棚卸しや「システムと運用業務の仕分け」の結果に基づいて、「情報システム部門としての在り方」そのものに目を向けたからだと思います。つまり、「いま目の前にあるシステムの集約や、運用コスト削減のために何をすべきか」ではなく、中長期的な視点から、「“ユーザー部門やベンダの言うがままにシステムを構築・運用してきた従来のスタイル”を改善するためにはどうすべきか」と考えたのです。

 これはすなわち「システム数の増加や、運用作業負荷の増大」という問題を生み出した“真因”を振り返り、 「主体的に物事を考え、判断する部門」としての在り方を目指したということにほかなりません。「事業戦略実現に必要不可欠な組織として認知されるようになること」という高い目標を掲げたのも、あくまで以上のように考えた結果だと思います。

 本来、情報システム部門は、“言われるがまま、求められるがまま”にシステムを用意する部門ではなく、ビジネス環境やIT技術が大きく変化する中で、自らの役割を自発的に考え、システム構築・運用の在り方を状況に応じて率先して変え、企業競争力を確保していく部門であるはずです。

 特に今後、クラウドコンピューティングが進展して「必要なときに、必要なだけ」ITリソースが使える環境が整うに従い、「社外から調達するリソース、社内で保有するリソースを情報システム部門が一元管理し、ITガバナンスを担保することがリソースの有効活用のカギになる」ともいわれています。いま、多くの企業の情報システム部門にとって、最も必要なのは、そうした「積極的に考え、判断し、管理する姿勢」を取り戻す、あるいは確立することなのではないでしょうか?

 今回は、IT投資も回復基調にあり、クラウド時代も目前に控えたいま、ERPをはじめとするシステム活用以前の問題、「情報システム部門の在り方」を再考することが重要と考え、I社の事例をご紹介しました。ぜひ皆さんも、自社のIT資産とその運用の在り方を見直したうえで、部門としての在り方という側面から“永続的な対策”を検討してみてはいかがでしょうか。

筆者プロフィール

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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