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「ロストテクノロジーになりかけた」、OTOTOYが語るDSD復活の裏話

» 2012年12月20日 22時39分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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 オトトイは、東京・渋谷の「ヒカリエ」でDSD音源の魅力を“体感”できるイベント「OTOTOY DSD SHOP」を12月19日から25日の予定で開催している。初日の夜にはオープニングイベントが行われ、いち早くDSD配信を手がけた“仕掛け人”たちが、この1年半を振り返りながらDSD音源の魅力を語った。

DSD SHOPの試聴ルーム(左)とオープニングトークの様子(右)。左からOTOTOYの飯田仁一郎編集長、竹中直純代表、サウンド&レコーディング・マガジンの國崎晋編集長、プロデューサーの高橋健太郎氏

 DSD(Direct Stream Digital)は、1999年に登場した1bit方式オーディオフォーマット。ポストCDを狙ったSACDに採用されたものの、専用プレーヤーが必要なことやタイトルのジャンルが限られていること、また「リッピングしてiPodに入れることができない」などの要因もあって普及していない。OTOTOYがDSD配信を始めた2010年頃には、「状況としては、すでにアゲンストだった」(サウンド&レコーディング・マガジンの國崎晋編集長)という。

 一方、楽曲収録の現場でも「Pro Tools」のように“PC1台とソフトがあればマスタリングやオーサリングができる環境”が全盛となり、時間とコストのかかるスタジオ収録やマルチトラックレコーディングのしにくいDSD録音は下火になっていた。國崎氏は、「録音フォーマットとしてのDSDは非常に優れているのに、すでにロストテクノロジーになりかけていた」と振り返る。これを「絶やしてはいけない」という使命感から、OTOTOYにDSD配信の構想を持ちかけたという。

 ただし、配信が始まっても、当初はコルグ「MR-1」など再生環境が極めて限られており、また数Gバイトが当たり前というDSDの容量もあって、サーバの能力やユーザーサポートなど苦労も多かったようだ。それでもハイレゾ音源の流れとともに順調に認知され、DoPなどの技術革新も手伝って状況は大きく変わった。今年後半にはDSDのネイティブ再生が可能なUSB DACがメーカー各社から登場するまでになっている。

試聴ルームでは、OTOTOY、e-onkyo music、サウンド・レコーディングマガジン提供のDSD音源を使い、横並びの試聴が可能になっている。ティアックのReference 501シリーズ(左)。MYTEKの「Stereo192-DSD DAC M マスタリングバージョン」(中)。ラトックの「RAL-DSDHA1」と「RAL-DSDHA2」(右)

 自らも大のオーディオ好きという高橋氏は、各社の製品を試聴して、「DSDの良さは共通でも、各メーカーのカラーがしっかり出ている。今までは“コルグの音”を聴いていたことが分かった」という。「オーディオファンとして楽しみが増えた」。

 OTOTOYでは、DSDによるライブレコーディング楽曲の配信に力を入れている。今回のイベントでもアーティストのRie FuさんやSuaraさんの楽曲を公開録音し、即座にOTOTOYで配信するといった企画を用意している。「DSDは、その瞬間、その場所の空気を“イイ感じ”に切り取る。例えば飲食店を使ったライブ音源なら、食器を片付ける音も入るが、それがすべてリアルで、しかも嫌な感じがしない。これがPCMでは気になるから不思議」(高橋氏)。

コルグ「DS-DAC-10」(左)。ベンチマークの「DAC2 HGC」(中)。コードの「QuteHD」(右)会場では、すべて同じ楽曲で聴き比べが行える

 また、「OTOTOY DSD SHOP」のオリジナル・テーマソングとして制作されたDE DE MOUSEの「sky was dark(sky was dark session)」の配信を12月20日にスタート。こちらは下高井戸にあるコルグ直営のスタジオで、世界に3台しかないDSDレコーダー「Clarity」を使用して収録したものだ。

 「マルチトラックレコーティングと違い、ライブレコーディングではアーティストも気合いを入れて演奏してくれる。生演奏ができるミュージシャンにとっては面白い作業。やり直しのきかない不自由さがいい」(國崎氏)。


 OTOTOYの竹中代表は、この1年半でDSD配信が順調に認知を広げてきたことにふれながら、「以前は、なぜか“高音質”というとクラシックやジャズばかりで、そのファン層しか楽しめなかった」と指摘。集まったオーディオファンに向け、「OTOTOYはポピュラーな楽曲の“高音質”を提供したい。今後も高音質路線を強力に進めていく」と約束した。

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