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大画面の“臨場感”創造技術、アイキューブド研究所が「ISVC」を発表ICCに続く第2弾

» 2013年02月25日 20時31分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 I3(アイキューブド)研究所は2月25日、プロジェクター向けの映像処理技術「ISVC」(Intelligent Spectacle Vision Creation)を発表した。ICCに続く第2弾は、4Kフロントプロジェクターをターゲットにした映像処理技術。フルHD映像をアップコンバートするだけでなく、「あたかも被写体の世界に入り込んだかのような感動をもたらす」という。

アイキューブド研究所の近藤哲二郎代表

 I3研究所は、DRCなどの開発で知られる元ソニーの近藤哲二郎氏が2009年8月に立ち上げた映像処理技術専門の独立系研究開発企業だ。2011年5月に発表した「ICC」(Integrated Gongnitie Creation)技術は、物体が光を受けたときにどう反射するか? という点に着目し、映像を見た人が脳内でその物体を認知しやすい光刺激を作り出す“光クリエーション技術”。2月20日に製品第1弾となる「ICC PURIOS」をシャープが発売したばかりだ。

 ISVCは、ICCのコンセプトを進化させ、大画面ホームシアターからパブリックビューイングといった“大画面”のプロジェクターに向けに開発された「映像空間クリエーション技術」(同社)という。今回も具体的なアルゴリズムは一切明かされなかったが、人間の視覚や認知の仕組みをもとに、現場で見る光景に近い刺激を映像で再現しようとする技術であることはICCと共通している。

ISVCは、映像という「光景」から、個人の記憶を呼び覚ます「情景」にする効果を持つという

 近藤氏によると、“高画質”には2つの軸があるという。まずICCテレビのような高解像度という方向性。1ミリ四方に9本の走査線という緻密さで画素の存在を意識させず、さらに光クリエーション技術により、人が画面内にある物体を認識するときの“脳の負荷”を低減する(ICCが「統合脳内クリエーション」とされているのはこのため)。近藤氏は、テレビのようなPush型情報ソースには、見ていて疲れないことも重要な要素だと話している。

 もう1つの“高画質”は、「画枠の存在を意識させない高い臨場感」。例えば間近に富士山を望むような光景には圧倒的な存在感と壮大さを感じるが、小さなテレビ画面から同じものを感じ取ることは難しい。60インチの4Kテレビでも、その一端を感じ取ることはできても“壮大さ”までは表現できない。そもそもカメラで撮影した時点で、撮像素子の画素数や色域、レンズの光学解像度といった物理的な制限を多く受けてしまう。「ここで失われたものがスペクタクルにつながり、脳が感動する。それを再現するのがISVC」(近藤氏)。

 近藤氏によると、壮大さを表現する場合に重要になるのは、映像に含まれる低周波成分だという。一般的に精細感を左右するのが高周波成分で、低周波成分は大まかな輪郭など。例えば富士山の映像なら稜線や湖の輪郭などがこれに当たる。「大迫力は低周波が左右する」(近藤氏)。

壮大さを表現する場合、重要なのは低周波成分だという

 プロジェクターをターゲットにしたのも、大画面であれば“スペクタクル”(壮大さ)を表現するのに有利なため。例えば、スピーカーで豊かな低音を得たいのなら、大口径のユニットと大容量のキャビネットを使うのが近道だ。それと同様、「まずは大スクリーンに表示して、低周波のエネルギーを画面均一に与える」という。「ISVCは被写体本来の持つ壮大な広がり感を再現し、現実世界と同じ感動を与える。もちろん映像がぼけていたらダメだ」。

 デモンストレーションでは、4Kプロジェクターを使用して本栖湖から望む富士山や、映画「アラビアのロレンス」のワンシーンを160インチあるいは400インチのスクリーンに表示して見せた。いずれもフルHDカメラやBlu-ray Discの2K映像だが、高い精細感とともに、岩肌や木々といった細かい部分がそれぞれに実体感を伴う様子はICCテレビに近い。さらに、富士山頂を400インチにズームしたときの迫力は、その大きさまで想起させるものだった。

「アラビアのロレンス」のワンシーン。左が既存の超解像技術、右がISVC。映像協力:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(クリックで大きな画像が開きます)

フルHDカメラで撮影した富士山をISVCで処理し、4Kプロジェクターで投映したもの(左)。デモ用の4Kプロジェクター(右)

「壮大さ」を説明するのは難しいが、とりあえず最初の感想が、「4Kカメラなら…」ではなく、「ヘリで山頂に近づいたら…」だったことは確か

 技術説明では低周波の部分に集中したが、それだけでないことはデモを見れば一目瞭然(りょうぜん)。近藤氏によると、ICCそのものではないが、その要素も盛り込んでいるという。「既存の超解像技術のように、1つのアルゴリズムで何かをする時代は終わった。複数のアルゴリズムで効果を練る」(近藤氏)。

 なおISVC技術については、パートナー企業をこれから募る状況のため、製品化のスケジュールはまだない。ただし、ISVC技術のLSI化については、「作ろうと思えばすぐに作れる、レディーの状態」と話していた。

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