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グラスの輝きと奥行き感に息をのむ――パナソニックの最新4Kテレビ「TH-65AX900」山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(2/2 ページ)

» 2014年10月28日 13時38分 公開
[山本浩司,ITmedia]
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 色再現に関する技術は、春モデルの「AX800」シリーズを踏襲している。すなわちDCI(デジタルシネマの技術標準化組織) が定める色域を98%カバーする広色域パネルにヘキサクロマドライブの組合せ。ヘキサクロマドライブとはRGBとその補色の6軸で明度・彩度・色相を独立調整する3次元カラーマネージメント回路だ。

春モデルの「AX800」シリーズに続き、RGBとその補色の6軸で明度・彩度・色相を独立調整する3次元カラーマネージメント回路「ヘキサクロマドライブ」を搭載

AX900で興味深いのは、次世代4K放送規格で定められたBT.2020の色域をサポートしていることだろう。まだこのBT.2020は運用されていないが、この規格が定める色域はHD規格のBT.709に比べて格段に広く、現行の白色LEDを光源に用いた液晶テレビでは、とてもじゃないがその色域をフルカバーすることはできない。つまりここでいうサポートとは、BT.2020 の信号が入力された場合に、BT.709の色域に圧縮するのではなく、BT.2020のカラーバランスに合わせてその色の魅力を活かす最適表示を目指すということのようだ。

 なお、映像モード「シネマ」「シネマプロ」の最終画質のチューニングについては、パナソニックハリウッド研究所(PHL )やハリウッドのポストプロダクションで活躍するカラリストの意見を反映させながら仕上げていったという。ちなみにユニフォミティ(画面の均一性)などに厳格な基準を設けたTHX 4Kディスプレイ規格の認証も取り付けているという。

4Kネイティブ映像をマスターモニターで眺めているかのようなすばらしさ

「鑑定士と顔のない依頼人」。国内版の販売元はハピネット。参考価格は5184円

 「ニュー・シネマ・パラダイス」を撮ったイタリア人監督、ジュゼッペ・トルナトーレの最新作「鑑定士と顔のない依頼人」の国内盤Blu-ray Diacを本機の「シネマ」モードでじっくり観てみた。偏屈な美術鑑定士で、カリスマ的オークショニアである老境のヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)のもとに、若い女性クレア(シルヴィア・フークス)から両親の遺品である美術品や家具の査定をしてほしいという電話が入る。人嫌いのヴァージルはいっさい顔を見せないクレアに当初は苛立たしい思いを抱くが、徐々に謎めいた彼女にひかれ始める。そして、ついに姿を現したクレアとヴァージルは……というお話なのだが、最後の大どんでん返しに唖然(あぜん)とさせられ、深い深い余韻に酔いしれることができる美しくて切ない極上のミステリー作品だ。

 全編最新の4Kシネカメラで24p収録された本作の画質も最高だ。「4KファインリマスターエンジンPRO」と命名された映像信号処理回路で4Kアップコンバートされたその画質は、きわめてキレがよくノイズ極少で、まるで4Kネイティブ映像をマスターモニターで眺めているかのようなすばらしさだ。原画解像度をきめ細かく判別、約12万パターンのデータベースを基にさまざまな信号復元処理を行い、テクスチャー部分のみを超解像化するという「4KファインリマスターエンジンPRO」の優秀さに感心させられた次第だ。

 また、高級リストランテで食事をする場面の、林立するワイングラスの輝きや奥行き方向の立体感の見事さにも息をのんだが、これは失われた高輝度領域の明るさと色を復元する「ダイナミックレンジリマスター」の威力が発揮されていることの証左だろう。OLEDのマスターモニターにきわめて近い質感表現といっていい。

 しかし、諸手を上げて本機を称揚するにはいかない部分もある。それが音質だ。この映画で指摘しておきたい魅力の1つとして、美しく儚い(はかない)エンニオ・モリコーネのペンになる音楽を挙げたいが、残念ながら本機内蔵のアンダースピーカーではその魅力が十分に伝わるとは言い難い。この高画質にバランスさせるには、まずは外付けの良質なステレオ・スピーカーを用意すべきだろう。

スピーカーは画面下

 ソニーに引き続き、LGや三菱からもこの秋、音質設計に細心の注意を払ったサイドスピーカー搭載4Kモデルが登場しているが、パナソニックにもこの高画質映像とバランスする高音質スピーカーの搭載を望みたい。このままでは“ビエラ=国内でいちばん音のひどいテレビ”という汚名を着せられることになってしまう。

 “Sound Designed by Technics”なんて高級4Kテレビ、いいと思うけどなあ。企画・開発陣の奮起に期待したい。

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