DSD配信は“素性”を明らかにするべき――クリプトン「HQMストア」のこだわり
クリプトンは11月26日、ハイレゾ音源配信サイト「HQMストア」の配信楽曲追加とDSD配信の開始を発表した。これまでDSD配信には慎重だった同社だが、ユーザーニーズの高まりを受け、好みの音を選択できるようにする。また同時に、一部配信サイトがDSD音源の制作プロセスを明らかにしていない状況に疑問を呈した。
“初デジタル化がハイレゾ音源”のライブ盤も
新たに追加される音源は、1960~1970年代に人気を博した「ペドロ&カプリシャス」と「長谷川きよし」のアルバム。同社は今年からシンコーミュージック・エンタテイメントに眠っていたアナログマスターテープ最新技術でリマスタリングし、192kHz/24bitのハイレゾ音源として配信する「オリジナルスタジオマスターテープ・ハイレゾ音源シリーズ」を手がけている。中でも4月に配信を開始した森山良子さんのアルバムは「稼ぎ頭」(濱田正久社長)というほどの人気だ。
「ペドロ&カプリシャス」は、1971年にデビュー。2代目ヴォーカルの高橋真梨子さん(当時は高橋まり)の時代に「ジョニィへの伝言」「五番街のマリーへ」というヒット曲を生みだした。今回は、初のハイレゾ配信のために特別に編成したベスト盤「BEST HITS」、カーペンターズなどの洋楽をカバーした「COVERS」、「Special Live 1977(1-2)、(2-2)」の4タイトルをラインアップ。中でもライブ盤は、「アナログレコードこそ発売されたが、CD化の機会に恵まれなかったファン待望のアルバム。三十数年の時を経て、初デジタル化がハイレゾ音源になる」(同社)。
一方の「長谷川きよし」は、1969年に「別れのサンバ」でデビューし、高い歌唱曲とギターテクニックで1970年代のフォークシーンをリードした盲目のシンガー・ソングライター。今回は1969年に収録したデビューアルバム「一人ぼっちの詩」など4つのアルバムをハイレゾ化する。
販売はすべてアルバム単位で、価格は各3500円(税別)。また長谷川きよしの4タイトルについては、192kHz/24bitのPCM版と同時にDSD 2.8MHz版を用意する。
DSD配信について、「かねてからユーザーの要望が多く検討を進めてきた」というクリプトン。しかし、単純に“DSD=高音質”というイメージが先行する現状には懐疑的だ。
「パルスの粗密で音を表現するDSDは『アナログ的な音』などと言われてファンも多いが、一方で原理的な問題も抱えている。例えば特性がフラットではなく、高域ほどゲインが下がる。編集もできず、良く言えば個性的、悪く言えば扱いにくいフォーマット。スタジオのエンジニアにもPCMのほうが良いという人は多い」(HQM事業推進室長の樋泉史彦氏)。
それでもDSD配信を始めるのは、利用者の選択肢を増やすためだ。「社内でブラインドテストを重ね、音については“好みの問題”で(PCM/DSDともに)一長一短があるという結論に達した。利用者が良いと思うほうを選んでもらえるようにしたい」。なお、長谷川きよしさんの音源からDSD化を始めるのは、ギターとボーカルのみのシンプルな楽曲のため、音を比較しやすいからだという。
DSD音源は“素性”を明らかに
DSD配信を始めるにあたり、同社ではいくつかの点にこだわった。まずは制作プロセス。アナログ・マスターテープからDSDファイルを作成する際、編集が難しいDSDの代わりにDXDフォーマット(352.8kHz/24bit)を採用した。PCM音源とは全く別に直接アナログ・マスターテープからDXDファイルを起こし、編集後にDSD 2.8MHzに変換する手順だ。「DXDは、SACDの制作にも使われている最高峰システム。高音質で知られるノルウェーの2Lレーベルでも利用しており、質の高いものができるのではないかと考えた」。
もう1つのこだわりは、ファイルフォーマットを業界標準の“DIFF”のみとした点。一方の“DSF”(ソニーが提案した民生用規格)を使えばカバーイメージやメタデータが使えるため利便性は向上するが、「ブラインドテストを行うとDIFFのほうが良い結果が出た」という。このため、当面はDIFFのみで販売を行う。「カバーイメージなどは再生機器のほうでカバーしてもらいたい」。なお、DSD 5.6MHzを手がけていない点については「設備投資の問題」としており、今後はスタジオ側の状況を見ながら検討を進める。
最後のこだわりは、上記のような制作プロセスを公開し、クオリティーに対する信頼性を担保することだ。DSD配信については、以前から業界内でファイルの制作過程が不明瞭という点が指摘されていた。樋泉氏は、「DSDで録音し、そのまま配信できるならベストだが、実際には“ライブ一発録り”などを除いて商品としては皆無に等しいはず。編集が事実上できないからだ」と指摘。ユーザーから見て、DSDフォーマットが持つ本来の特徴を活かしているか判断しにくい販売方法は問題だという。
「例えば192kHz/24bitのPCM音源からDSDに変換することは難しいことではないし、CDの44.1kHz/16bitをDSDに変換することは個人でも容易に行える。しかし、商品となれば話は別。どのようなプロセスで制作したかを明らかにするべきだ」(同氏)。
HQMストアでは今後、スタジオマスターシリーズとして配信しているタイトルを中心に順次DSD音源の追加を検討していくが、同時にDSDファイルのトレーサビリティの明確化する「DSD by DXDロゴマーク」を作成し、活用する方針だ。「DXDによる制作過程をアイコン化したロゴを利用者に明示し、音源の素性が分かるようにする」。
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