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ハイレゾが変わる――英Meridianのボブ・スチュアート氏に聞いた“MQAの最新情報”と「PHA-1」の“隠し機能”(3/4 ページ)

» 2015年07月28日 13時00分 公開
[山本敦ITmedia]

ハイレゾのリスニングスタイルを変える「MQA」の最新事情

 PHA-1のもう1つの特徴は、メリディアン・オーディオが開発するロスレス・オーディオの新たなコーディング技術である「MQA」(Master Quality Authenticated)に対応する“MQA Ready”なオーディオ製品であるということだ。

 「MQAはスタジオで制作された音楽をより忠実に、コンパクトなファイル容量でユーザーの耳に“エンド・トゥー・エンド”で届けるための技術」であるとスチュアート氏はうたっている。スタジオ品質のマスター音源を独自のサンプリング処理によって「Encapsulation」(=カプセル化、つまりエンコード処理)したファイルを、ソフトウェア、またはハードウェアのデコーダーを通して再生する一連の流れがMQAの基本である。マスター音源はリニアPCM方式の44.1kHzから768kHzまで、幅広くカプセル化の対象とすることができて、FLACやWAV、AIFF、ALACなど既存のデータコンテナに格納ができる。さらにMQAデコーダーを搭載しない機器で再生した場合にも、CD品質での再生互換が確保されていることも特徴だ。

 もう一点、スチュアート氏がMQAのキーポイントとして挙げているのは「オーディオ折り紙」と呼ぶプロセスだ。マスター音源からハイレゾの音楽信号としてエッセンスとなる部分だけを取り出して「折り畳み」ながら、段階的にファイルの容量を約1Mbpsのビットレートにまで圧縮してしまうという画期的な技術だ。これをMQA対応のデコーダーで処理すれば、マスター音源に対して「Bit-for-Bit」のクオリティで忠実に再現することができる。これにより、容量の大きな高音質オーディオファイルが、音楽ダウンロードやストリーミング配信のプラットフォームにも比較的容易に展開できるようになる所にMQAが注目を集めているもう1つの理由がある。

 PHA-1にもMQA対応のデコーダーが搭載されており、今後はファームウェアのアップデートをオンライン経由で提供していく予定があるという。MQA対応の音源については、現在国内外のさまざまなレーベルがMQAの採用に興味を示し、実際に近くリリースに向けて製作が進められているタイトルもあるようだ。

 今回の来日の機会にスチュアート氏が持参していた、英国の有料音楽配信サイトである「7digial」とのコラボレーションによる、MQA対応デコーダーを搭載したAndroid用ハイレゾプレーヤーアプリのプロトタイプも見せてもらうことができた。

7digitalが開発したMQAデコーダーを搭載するプレーヤーアプリのプロトタイプ

 MQAデコーダーはハードウェアだけでなく、ソフトウェアからも実装できることが1つの特徴。「こちらのようにスマホアプリにすることでさまざまなモバイル端末でMQA対応が比較的容易に実現できるということをアピールするためのプロトタイプだ」と、スチュアート氏は本機を持参した意図を話した。開発中の「MQA by 7digital」アプリでファイルを再生すると、MQAの「Authenticated」(=お墨付きを与えられた)ファイルであることを示すため、ジャケット写真の左下に「MQA STUDIO」または「MQA」のテキストロゴが表示される。PHA-1でMQAのファイルを再生したときに、フロントパネルに設けられている「MQA」のインジケーターが緑色に点灯するのと同じ役割だ。

楽曲再生時の画面。MQAエンコードされた楽曲を再生すると、ジャケット写真の左下に「MQA」の文字が表示される

 なお「MQA」のファイルは今後、「MQA STUDIO」と「MQA」の2種類に分けられるようだ。上位の「MQA STUDIO」は録音スタジオやアーティストのレベルまで、音源制作の全プロセスにおいて「Authenticated」された、よりピュアなMQAサウンドのファイルとなる。かたやMQAのプロセスでエンコードされたファイルであれば通常の「MQA」対応のプルーフが取得でき、再生時にはガイドランプやテキストロゴなどでこれが表示される。今後正式にMQA対応の音源が発表されるタイミングでまた詳細なルールが明らかにされるだろう。また音源の話題に限らず、今年の後半にかけてMQAに関連するさらに踏み込んだ内容の発表が行われることも期待したい。

MQA STUDIOクオリティーの楽曲を再生したところ

 最後にメリディアン・オーディオが今後展開する製品の開発ロードマップをスチュアート氏にたずねた。“Prime”シリーズについてはPHA-1とサイズマッチさせた安定化電源ユニット「Prime Power Supply」が既に製品化済みだ。PHA-1に組み合わせることで、よりピュアな電源をヘッドフォンアンプに供給することができるようになるというアイテムだが、日本上陸も近く実現されることを期待したい。スチュアート氏はまた、「Primeシリーズとしてこのコンパクトサイズのコンポーネントを拡充してきたい」という思いを語ってくれた。

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