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「ハイレゾ第2章、始まります」――音展に見るハイレゾの新境地麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/2 ページ)

» 2015年11月30日 12時38分 公開
[天野透ITmedia]
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――「DDD」や「AAD」というと、音源の作業環境を表示するものですね。前から順番に「レコーディング」「ミックスダウン」「マスタリング」で、Dはデジタル、Aはアナログを示しているものです。特にクラシックのCDなどには、パッケージやレーベル面にだいたい表記されていますね。

麻倉氏:最初がAなら古いアナログマスターを使ったものだとかいったように、CD時代にはこの表記でマスターやマスタリングをある程度推測することができました。これのハイレゾ版ともいうべき「Master Qualty Pcm」というシステムが、アメリカでは既にあります。これに沿えば「数字が良くても音はイマイチ」といったザンネンなこともなくなる訳です。

――フォーマットだけ192kHz/24bitで、実際収録されている音は22kHz止まりといったようなインチキもできなくなりますね。まあ一部で「ニセレゾ」が問題視されている今の状況で、そんなデタラメなことをする人は居ないでしょうけれど……。

麻倉氏:フォーマットについても面白い流れが出てきています。エンジニアやプロデューサーたちの間では、従来は48kHz/24bitが好まれていました。ですが、最近は96kHz/24bbitで録ることがデファクト・スタンダードになったということです。

――特にポップス系では、クリエイター側が可聴外域を扱いたがらないと感じていました。そうならばハイレゾのプロモーションが確実に浸透している結果ですね

麻倉氏:ハイレゾ時代の音楽制作では、機材やフォーマットの選択が重要というのは先程述べた通りです。市場の影響はもちろんですが、制作側でもこういったポイントのノウハウが溜まってきたということが大きいと思います。CD時代は44.1kHz/16bitがデファクト・スタンダードでしたが、次世代の標準は96kHz/24bitかDSD 5.6MHzでいきたいところですね。

 これに関連して、ミキサーズラボ会長の内沼映二氏が、「16kHzの波形を画像で見た時、サンプリング周波数192kHzのものと96kHz、48kHzのものではひずみ方が違う」という非常に興味深い報告をしています。内沼会長の実験によると、高周波バイアスをしっかりかけるとひずみが減って滑らかに、薄くかけるとひずみが出て派手な音になっているのです。

――フォーマットによる音の違いは「ハイサンプリング化すると音がしなやかになる傾向があるな」とは何となく思っていましたが、音のパワー感とサンプリング周波数との関係がこれで実証されたという訳ですね。サンプリングを控えめにすると音がエネルギッシュになるということは、先程の「ポップス系の人達が高域を録りたがらない」という話とも合致します

麻倉氏:実はこの現象、アナログ時代でもあったことなんですよ。ですので、アナログ時代からのオーディオファイラーは体感的に理解できるかと思います。

 このひずみの違いが一種の表現となりうるのですが、面白い例では同じ楽曲でも音源によってサンプリング周波数を使い分けているというものもあります。内沼さんが制作した角田健一ビックバンドのハイレゾでは基本96kHz収録ですが、弦だけは192kHzで録って響きの深さを出そうという試みがされています。

 つまり「The more, The better.」ではないということですね。44.1kHz/16bit一辺倒のCD時代と比べて、現在はPCM 48kHzからDSD 256(11.2MHz)までの幅広いフォーマットを選択することができて、それらを使い分けることでより深い音楽表現をすることがハイレゾでは可能となったのです。「響きの美しさを極めるためにDSD 256でいくぞ」とか「魂に響くパワーを求めて、あえてPCM 44.1だ」といった、コダワリの音源が増えることを期待したいですね。

サンプリング周波数の違いで、波形に違いが表れるという例。18kHzの同じ音を同一環境で、44.1kHz、96kHz、192kHzで録り分けたところ、明確な違いが現れている。デジタルの常識が根本から覆される可能性すらある、衝撃的なデータだ
収録フォーマットと音の傾向はこのような感じ。基本的に数字が大きくなると滑らかで柔らかく、数字が小さくなると力強く荒くなると考えて良さそうだ

麻倉氏:音展の話題をもう1つお話しましょう。英国メリディアンのボブ・スチュアートさんが今回も来日して「MQAが音のいい秘密」という講演をしました

――現在のところ対応機器も音源も少々限られてはいますが、MQAは新世代の注目フォーマットですね

麻倉氏:MQAの大きな特徴は時間軸変動が少ないことです。コレを考えるか否かで全然音が違います。今年の春にも「時間軸解像度」という概念がMQAのミソだということをお話しましたが、世界でも極めて先進的なオーディオ市場である日本で、改めてこの概念の重要性を訴えていました。

――開発者のボブ・スチュアートさん自らが伝道師として度々日本を訪れているわけですが、MQAは実用化が始まったばかりの技術なだけに、その良さを多くの方へ知ってもらうというのは非常に重要です

麻倉氏:もう1つ、MQAの利点は折り紙効果による情報圧縮です。これのお陰で転送レートが低くても高音質を保てます。

――これも春のお話しのおさらいですね。ノルウェーの2Lではこの技術を使って既にハイレゾのストリーミングサービスが始まっているという事でした

麻倉氏:その2Lですが、384kHz/32bitというPCM系では現状で最高峰レベルのハイサンプリング・ハイビット音源を、CDよりも低レートのわずか1.1Mbpsに収めたという例もあります。普通なら1Gbpsものビットレートを要することを鑑みると、驚きの圧縮率ですね。

――メガとギガでは単位がワンオーダー違いますね。確かに驚異的な圧縮率ですし、光回線や4G LTE等のネット回線の実情を見て、数Mbpsオーダーであればストリーミングも現実的です

麻倉氏:今のところ音源のリリースまでなかなか行きついていません。が、音や講演を実際に聴いたレコード会社側は意欲満々です。ハイレゾストリーミングはともかくとして、MQAは容量だけでなく音の利点も大きい訳ですから、是非とももっと普及してほしいというのが私の希望ですね。

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