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新世代のハイエンド音源、「MQA」の圧倒的な魅力麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/3 ページ)

» 2016年08月31日 22時30分 公開
[天野透ITmedia]
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――本当の音ですか。オーディオファイラーが追い求める“根源”の1つですね。ですがそれを語るには「本物の生音はどうなのか」という事が気になります

麻倉氏:その質問に対する答えは、カメラータ・トウキョウのプロデューサーである井坂紘氏が放った「これぞ私が録った音!」という一言に尽きるでしょう。確かに再生音の比較による音の違いによって“本当の音”というのは現象として分かりますが、果たしてそれが“本物の音”なのかまでは、収録現場の音と比較しない限り分かりません。ですが今回、実際に録音した井坂氏の証言を私は確かに聞きました。

ディレクターの井坂氏が「これぞ私の録った音!」と太鼓判を押す「至高のコンサートグランド ファツィオリ」
イタリアの聖クローチェ美術館での収録の様子。荘厳な空間にイタリアンピアノが鎮座する
収録に臨むコンスタンティーノ・カテーナ氏

 「驚異のデュオ」は、響きに関してはそれほど多くなく、むしろ眼前の直接音で、よくいわれる「松脂が飛び散る」音源です。先程の表現に則ると、チェロとコントラバスの発音メカニズムが、時間軸的に拡大されるようです。弦が弓を擦り、響きがボディに共鳴して音が出るという、弦楽器の発音メカニズムがそのまま目に見えるように感じます。擦音、共鳴、倍音放射というプロセスが大変生々しい。これまでの音源と比較すると、192kHzは細部の彩がクリアでこそありましたが、音自体はストレートなものでした。MQAでは音のボディ感や木の共鳴感、音が通過する様子がスローモーションで見えてくるようです。

 「FAZIOLI」は響き、「驚異のデュオ」は発音と切り口は異なりますが、いずれも通常よりも細部の動きのブレがなくなる感じが共通します。細かい部分の音が滑らかに動く、言うなれば「音の高速度撮影」あるいは「音の倍速駆動」といったところでしょうか。そのため音や響きが“ゆっくり見える”のです。

――音の倍速駆動、なるほどこれは分かりやすいです。現代の液晶テレビに見られるあの“ヌルヌル感”が音となるのですね

麻倉氏:誤解のないように加えておくと、MQAは決して補間によって響きを付けるとか、響きを作るというものではありません。ただ今回の2つのケースを見てみると、FAZIORIは音場の絢爛さがよりカラフルになる、あるいは驚異のデュオは発音メカニズムが明確になるというように、オリジナル音源が持つ魅力を上手く取り上げて、新しい音楽体験として聴かせます。

 今回取り上げたのはいずれも発売済みの音源をMQA処理したものですが、これまで慣れ親しんだ音が「本当はこういう音だったのか」という、感動的な体験です。実際、私のイベントの時に、とある参加者の方からTwitterで「聴いてはいけない音を聴いてしまいました。どうしましょう……」とリプライが飛んできました。

「驚異のデュオ」は音の滑らかさが特長。液晶テレビの倍速駆動のようなヌルヌル感で、発音の様子が実に聞き取りやすい

麻倉氏:このイベントでは、その他にもUNAMASや2Lなどの音源を聴きましたが、例えば生々しい2Lレーベルの特長がよく出てコンサート会場に居る感じがしたというように、MQAは各々の音源が持っているワン・アンド・オンリーの個性を上手く引き出した音楽を聴かせてくれました。考えてみれば、今までのオーディオでもそういった感動体験は多々ありました。今回のMQAでは「サイドバンドを排除することで、音源が元々持っている特長に気付くようなクリアさが出た」という発見をしたのです。

――今回のお話で、MQAは「スピーカーがハイエンドになった」ようだと感じました。スピーカーの進化というのは基本的に高い応答速度と内部損失を如何に両立させて「素早く反応し、必要以上に動かさない」を突き詰めるという作業で、これはMQAのサイドバンド排除と合致しますね

麻倉氏:なるほど、スピーカー動作の強度としなやかさと内部損失とを追求することで時間軸解像度のメタファーとしては確かに言い表せそうです。つまりMQAは技術革新と発想の転換による“新世代のハイエンド音源”となりますね。

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