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有機ELテレビにみるソニーとパナソニックの大きな違い――CESリポート(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/6 ページ)

» 2017年01月24日 19時48分 公開
[天野透ITmedia]

 一年の計は元旦にあり――デジタル業界の場合、一年の計を見るにはラスベガスへ向かうのが一番の近道だ。ラスベガスコンベンションセンターを中心に、周辺のホテルなども巻き込んで毎年行われる世界最大のエレクトロニクスの祭典「CES」が、今年も盛大に開かれた。今回のトピックは、有機ELテレビが家庭に入るための具体的なカタチを伴ってきたということだが、LGエレクトロニクスやパナソニック、ソニーの動向を中心にCES歴20年以上を誇る“CESの水先案内人”麻倉怜士氏に聞いてみよう。

記念すべき「デジタル閻魔帳」第1回に掲載された2004年の麻倉怜士氏

麻倉氏:今年で「デジタル閻魔帳」の連載ももう13年目になるんですね、早いものです。

――ちょっと振り返ってみたところ、2004年10月末の「秋のプロジェクター編」が記念すべき連載第1回でしたね(先生が若い!)。栄枯盛衰の激しいネット世界で同じ企画が10年以上も続いているというのは本当に凄いことです。

麻倉氏:デジタル閻魔帳を始めた時には既にその年最初の取材をラスベガスのCESで行うようになっていましたが、それにしてもビデオ戦争や各種薄型テレビの勃興と衰退など、随分といろいろな変化が起きたものです。

 さて、そのCESですが、以前からの慣習でよく「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」と言ってしまいがちです。しかし昨今では主催団体であるCTAからのメールでも「CESと書いてくれ、『コンシューマー・エレクトロニクス・ショー』ではないし、『ウィンターCES』でもない。あくまでCESであって、そこにスタンドフォアはないんだ」と書いてあったりして、民生の電化製品一辺倒というイメージからの脱却を図っています。

 これは逆にいうとCESの三文字にいろんなスタンドフォアが考えられるということで、例えば「C」は「Consumer」ではなく、最近では「Car」の様相が強いですね。バッテリー、ワイヤー、メモリ、CPU、ソフト、コンテンツなどなど、自動車は総合電気商品であり、それらが全部合わせて最新トレンドである自動運転へつながります。

――確かに、トヨタやBMWといった従来の自動車メーカーと同時に、テスラやGoogle、あるいはAppleといったシリコンバレーのカンパニーが自動車業界のトレンドを引っ張っています。PC業界ではグラフィックチップで有名なNVIDIAも、自動運転時代においてはAIを司るCPUの一大サプライヤーですし、日産「GT-R」のインタフェースを開発したのが「グランツーリスモ」で有名なポリフォニー・デジタルということもここに通じるでしょうか。

麻倉氏:CESは今回で50周年だそうで(対するIFAは元々ラジオショーが始まりで、なんと第2次大戦の前から続いて70年以上だそうです)、このようなショーは時代ごとの最先端が牽引するもの。今年はクルマとIoTがあちこちで踊っていました。このように今の電気産業が抱える、電気を使う全ての製品を取り扱う一大展覧会、それがCESなのです。

――ではこの企画の主眼でもある、従来的な“コンシューマー・エレクトロニクス”の観点で見た今年のCESはどうだったでしょう?

今年のCESは「OLEDショー」

麻倉氏:オーディオビジュアルのサイドから見ると、今年は圧倒的に“OLEDショー”ですね。連載開始時の2004年では“夢の次世代デバイス”だったのが、13年経ってようやくカタチになりました。そのOLED、国際展示会の会場で話題になりだしたのは4年ほど前からですが、現実的な民生品として一気に火が着いたのは一昨年くらいからです。

 大画面のOLEDは、2012年の段階で最初にサムスンとLGディスプレイがフルHD OLEDを投入してきました。しかしサムスンは途中で脱落し、今は量子ドット(Quantum dot、以下QD)へ開発リソースをシフトさせています。一方の孤軍奮闘のLGはパネルの量産化に成功しました。展示会での勢いは2015年のIFAで加速して2016年のCESへ、という感じですね。そこからさらに1年経った今年最大のポイントは、これまで韓国メーカーがトレンドを作ってきたという構図から、トレンドセッターがいよいよ日本の各メーカーに流れてきたことでしょう。

――日本のビジュアルファンとしては、新技術が次々と開拓されてゆく様に喜びつつも、どこか寂しい気持ちでいた方も多いでしょう。僕も日本のメーカーなら大画面OLEDをどう料理するだろうかとよく想像していました。

今回のCESでOLEDにおける主役の一角を担った、ソニーのOLED BRAVIA「A1E」シリーズ

麻倉氏:ところで今OLEDに関連する学会で最もホットな話題はQLED、つまりQD技術を用いた次世代OLEDです。QDのキューティクルは実は発光体でもあり、電気をかければ自発光します。一方のOLEDは有機素材に通電して発光させるLEDの親戚のようなものです。今の研究ペースを見ていると、QDが発光する次世代OLEDとして、おそらく5年か6年位の間には量産化されるでしょう。これは印刷方式で作るので、印刷方式の開発と信頼性確保も含めて新しいOLEDをどう作るか。そんなこともあって学会に行くとQLEDが大変な話題となっています。

 なぜQLEDかというと、色再現性がすごく高いんです。LGディスプレイが生産している現状の白色OLEDはようやくDCI P3を100%達成したというところですが、ここからBT.2020へのジャンプというのはなかなか難しいんですね。それがQLEDだとBT.2020の色域をいともたやすく突破してしまいます。そのくらいQD粒子の発光効率、純粋度が非常に高いんです。

 デバイスの色再現性はRGB各スペクトラムのサイドバンドがどれだけ少ないかと、出力レベルがどれだけ高いかで決まります。横軸を波長、縦軸を出力レベルとしたグラフでパネルの発光を見てみると、RGBの中心がそれぞれ1本ずつ立っていて、そのレベルが高いほど色再現性が広くなるのです。しかしサイドバンド(側波帯)が広がると各原色の発光エリアが被ってしまい、純色以外の中間色が出てきて色が濁る原因となります。QD発光はスペクトラムの出力レベルがもの凄い高くサイドバンドが少ないということで、2020までカバーできるのです。なので業界では今、QLEDが夢の技術といわれているんです。

――なるほど、3原色ができるだけ純色でなおかつ光量が稼げると、それだけ光を混ぜるエリアが拡がり、より多くの色を表現できるという訳ですね。だから高出力でノイズの少ないレーザー光は液晶テレビやプロジェクターのバックライトに選ばれる。三菱電機の3原色レーザーバックライトはいち早くBT.2020をほぼカバーしたモニタとして一昨年に注目を浴びました

麻倉氏:サムスンのカンファレンスがこの話に関連するのですが、なんと壇上で「私達の最新テレビは“QLED”です!」といっており、これには「え〜!!!」とヒックリ返ってしまいました。「今まで私達のテレビは“S-UHD”といっていましたが、今年売り出すテレビは“QLED”といいます!」。凄いな、サムスンはそんなにすごい超最先端技術を持っていたのか、と。

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