キャリアはスマートフォンによるトラフィック爆発にどう対処していくか:本田雅一のクロスオーバーデジタル
スマートフォンの急速な普及に伴って、ちょっとしたタイミングでもパケット通信がうまくできず、ストレスを感じる機会が増えた。こうしたトラフィックの爆発に対し、各キャリアはどのような対策を行っているのか。
ネットワークの整備が追いついていない
今に始まったことではないが、山手線で大きな駅に差し掛かると、例えTwitter程度のトラフィックでも、とたんにパケットが流れなくなる。スマートフォンの流行が決定的になってからというもの、人口密集地でのトラフィックには閉口することがしばしばある。
携帯電話事業者にもよる違いもあるが、スマートフォン市場の急速な伸びに対してネットワークの整備が追いついていないことは明白だ。どんなに素晴らしいネットワークを構築した携帯電話事業者でも、狭い場所にたくさんのスマートフォンユーザーが集まれば、破綻は避けられない。
もちろん、そんなことはスマートフォンの導入を始める前から予想できたことだ。端末あたりのトラフィックを、実装するアプリケーションからは予測できない(そもそもユーザーがどんなアプリケーションをインストールするかが分からない)のだから、スマートフォン時代にトラフィックがどれぐらい増加するかなど神のみぞ知る……である。
トラフィック増加のペースは、各事業者などが予測値を発表するごとに伸びており、もはや予測値そのものに意味がないのではと思えるほどだ。スマートフォンユーザーの数は予想できても、1人あたりのトラフィック増加までは予想しづらい。確実に言えるのは、4Gが整備されるまでの間、破綻なく持ちこたえることは困難ということぐらいだろう。
オフロード策として有効なのは無線LANだが……
NTTドコモの山田隆持社長が7月、LTEの整備計画を2年前倒しすると話したのも、無理からぬことだ。KDDIの田中孝司社長が無線LANスポットの整備を掲げているのも同じだ。KDDIに限らず、無線LANを用いたトラフィックのオフロードは、スマートフォン対策における鍵だと考えられている。
しかし、公衆無線LANでのオフロードは簡単ではない。3Gのトラフィックを効果的に抑えるには自動的に無線LANに接続する仕掛けが必要だが、公衆無線LANのエリア端では通信が不安定になりやすい。無線LANとWANのスムースな切り替えは意外に難しい。うまく切り替えなければ、3Gのエリア内なのに(通信が不安定な)公衆無線LANを捕まえてしまい通信できないなんてこともあるだろう。
結局、今できる最良の対策はLTEへの投資を前倒しにしてトラフィックを逃し、少しでも破綻の日時を先送りにしながら、さまざまな解決策にトライし、正解を模索していくことなのかもしれない。これはなかなか大変なプロセスだ。
例えば公衆無線LANの処理だが、すでにKDDIでは公衆無線LANへのアクセス制御に、ちょっとした工夫を仕込んでいるようだ。自社あるいは提携する公衆無線LANスポットに自動接続するプロファイルを仕込んでおき、不安定な通信を検出すると3GあるいはWiMAXなどでセッションを張り直す。この制御を最適化することで、ユーザーは知らず知らずのうちに3G、WiMAX、Wi-Fiを使い分けるようになる。同様の工夫は、おそらく他の携帯電話事業者も行っていると考えるべきだろう。
WiMAX基地局の展開に資金を出すKDDI
そんな状況の中で、UQコミュニケーションズの一部WiMAX基地局整備に、KDDIが資金を出しているとの話が入ってくるようになってきた。もちろん、両者に資本関係があることはみなさんもご存知だろうが、基地局建設にKDDIが直接資金を出しているという。
理由はUQコミュニケーションズとは異なるパターンの基地局展開を、KDDI側の立場から行うためだ。KDDIがこの秋に複數のWiMAX内蔵スマートフォンを発売することは、田中社長自ら公言している。噂によると4機種ほどが年内に用意されるという。国内メーカーも含まれており、いわゆるガラケー機能を内蔵した“WiMAXガラスマ”も含まれているようだ。
KDDIがWiMAX内蔵にこだわるのは、今後数年にわたってWiMAXが他社に対する大きな武器になるからだ。何しろWiMAXとLTEでは、すでにエリアに大きな差がある。今後、LTEへの投資が大きくなっていくにしろ、しばらくはWiMAXのほうが有利だ。LTEが使い物になるエリアを獲得し始めたら、LTE対応機種とWiMAX対応機種を両方バランスよく売っていけば、これもトラフィックの分散になる。
ただ、そのためにはUQコミュニケーションズとは異なるパターンの基地局敷設も必要だ。主にPCで利用されることの多いWiMAXは、スタジアムやリゾート地などでカバーされていない場所も少なくない。スマートフォンが使われる場所よりも、PCが使われる場所を主眼において整備が進められているからだ。そこでUQコミュニケーションズが計画していない、しかしスマートフォンが使われる機会が多いと予想される場所に、KDDIが予算を出してWiMAX基地局を立てているわけだ。
すでに全国的なエリアが完成している3G回線に、今から大きな投資をするよりも、ある程度のエリア整備が進んでいるWiMAXのネットワークに対し、補完的に投資を行う。その上でWiMAX搭載スマートフォンを多機種投入すれば、3G回線への圧迫を回避できる。こうすることで、WiMAX非搭載のスマートフォンも結果的にトラフィック緩和という恩恵を被ることになる。
WiMAXと3Gの間ではハンドオーバーできないという指摘もあるが、これはLTEも同じだ。WiMAXと3Gの間でネットワークが切り替わり、通信セッションが継続できない場合はアプリケーション側でコミュニケーションを再度行い直すように、手順を組んでおけばいいだけだ。
スマートフォンの急速な普及と通信量の爆発的な増大は、3GからLTEへとスムースにバトンタッチするシナリオを壊してしまった。間に入れる緩衝材として、KDDIの場合はWiMAXの徹底的な活用という選択をした。ではNTTドコモとソフトバンクモバイルはどうするのか。
まだまだスマートフォンのトラフィックにまつわる、携帯電話事業者のあの手、この手は尽きることがないだろう。言い換えれば、このスピード感に対して、的確な予想をしながら追従していける身軽さがなければ、スマートフォンという隕石が及ぼす環境の変化についていけないとも言える。
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