ITmedia NEWS >
コラム
» 2006年08月21日 09時30分 UPDATE

金融・経済コラム:ベンチャー企業にこそ社外取締役を……?

大企業に比べ新興企業ではあまり重要視されない傾向にある社外取締役の導入だが、そうした企業に社外取締役を置くことはコーポレートガバナンス改善に効果的なのではないだろうか。

[保田隆明,ITmedia]

 当コラムでは、新興市場の上場基準主幹事証券会社の姿勢などについて書いてきましたが、今回はベンチャー企業側のコーポレートガバナンスに関して触れてみようと思います。

 社外取締役の必要性はまずは大企業において盛んに叫ばれています。経営陣の本来の役割は企業の収益を最大化し、株主価値を最大化することであり、取締役は経営陣がその目的を達成するような施策を取っているかをモニターする役割、まさに経営陣を取り締まる役なわけです。

 ただ、経営陣と取締役が同じ人物である場合、また、取締役が全員社内の人間である場合は客観的な判断、つまり、株主の視点でモノを見ることに精度を欠く可能性がある、したがって社外取締役を導入するべきだというのが昨今の社外取締役導入に関する議論だと思います。

 一方で、社外の人間が事業内容を把握することはなかなか難しいでしょうし、社外の人間に経営の重要な判断を一部委ねることの方がリスクは大きいという意見もあります。

 社外取締役を導入するかしないかは、最終的には企業それぞれの状況に応じて判断していくのでしょう。ただ、今までの日本企業の経営陣が株主を向いた経営をしていなかったのは、それが自分たちの役割だということを知らなかっただけであり、別に意図的に株主価値を下げたりしようとしていたわけではないと思います。今では、これだけ株主経営が叫ばれていますので、経営陣はキチンと株主を向いて経営しているところが増えていると思います。特に大企業の経営陣の多くはサラリーマン経営者ですので、彼らはやはり株主からクビにはされたくはないでしょうから、今後は粛々と株主価値を最大化することを目指して経営していく経営陣が増えるでしょう。

 そうなれば社外取締役の必要性というのもさほど大きくはないのかもしれませんが、今ではむしろ社外取締役を導入することが一般化してきていますので、社外取締役を導入することの害でも現れない限りは社外取締役導入の流れが逆戻りすることはなさそうです。

 前置きが長くなりましたが、大企業では進められる社外取締役の導入ですが、ベンチャー企業ではその必要性はあまり大きくはうたわれていません。その理由としては、ベンチャー企業では経営者が大株主である場合が多く、株主=経営者であり、この2つの利害関係が自ずと一致するからということがあるでしょう。

 では、ベンチャー企業では社外取締役の導入は必要ないのか、というとむしろ逆でベンチャー企業こそ社外取締役の導入の必要性は高いのではないかと思います。正確には企業の規模の大小ではなく、ベンチャー企業をオーナー経営者の企業と読み替えていただくのが適切だとは思いますが。また、これは多数の株主を抱えることになる上場企業または上場を目指す企業の場合であり、ファミリー企業の場合に社外取締役云々の議論をすることはほとんど意味がありません。

 さて、なぜベンチャー企業でこそ社外取締役が必要かという理由ですが、もちろん社外取締役の導入によって、昨今騒がれましたベンチャー企業の粉飾決算や決算の大幅修正など、目に見える問題を改善するという効用もありますが、それらは当然のこととして、それに加えて一般株主の代弁者という意味で導入をすべきだろうと思います。オーナー経営者の場合は、株主=経営者であり、確かに両者の利害は一致するわけですが、その構図は正確には「大」株主=経営者です。つまり、大株主の意向を反映する経営は確かにできるでしょうが、逆に一般株主を無視した形での経営ができてしまうことにもなります。

 大株主と一般株主の利害が相反するケースにどんなものが考えられるかというと、よくありがちなのはM&Aや資金調達の場面です。M&Aの際に、売却側企業がオーナー企業だったとして、会社を安い値段で売却することにした場合などです。オーナーである大株主が会社の株式を取得した価格は非常に低いでしょうから、極論すればいくらで会社を売却してもガッポリと利益は入ってきます。一方で、一般株主は株式市場で株を購入しているケースがほとんどですので、会社の売却価格が低いと、損をする株主も出てきてしまいます。

 また資金調達面では、株価が下がってしまうような増資を行ったりするようなケースで大株主と一般株主の利害が相反するケースもあります。

 したがって、一般株主の代弁者として社外取締役をという議論になるのですが、しかし一方で、資本の理論に則って考えると経営事項の決定組織という意味では、株主総会の方が取締役会よりも上位に位置します。つまり、いくら社外取締役を置いてみたところで、そしていくら少数株主がワーワーと騒ぎ立ててみたところで、株主総会での決議事項は多数決で決められるものですので、大株主のやりたい放題できてしまいます。

 オーナー企業、または親会社が株式の大半を持っている上場子会社の一般株主になるのはこのようなリスクが存在しているわけです。そういう企業の上場を認めていていいのかという議論はまた別の機会にしたいと思いますが、一般株主は自己責任でそのようなリスクも享受した上で株を購入することになります。株式投資では自己責任という言葉がさまざまな形で使われますが、そのような企業の一般株主になることのリスクまでをも自分たちで理解してね、というのはなかなかハードルが高いようにも思えます。

 保有株式数という意味では一般株主はオーナーである大株主には全然及びませんが、上場しても誰も株を購入しなければ上場はできないわけですので、一般株主が存在してこそ上場が可能となるわけです。それであれば、上場をするオーナー系ベンチャー企業は、上場させてもらう対価として、一般株主に対してもある程度の配慮をしますよという責務のような形で、一般株主の代弁者としての社外取締役を導入するというのは重要ではないかと思います。

 たしかに、株主総会の方が取締役会よりは意思決定機関としては上位に位置しますが、日々の経営事項は取締役会で決定されていき、株主は無言の承認をしていくというのが実際の姿ですので、その取締役会に一般株主の代弁者的立ち位置の社外取締役がいるかいないかは全く異なってくると思います。

 特にオーナー経営者の場合は、発言が大株主の立場としての発言なのか、もしくは経営者としての発言なのか、受け取る側は分からなくなってくることが多々あります。おそらく本人もごちゃごちゃになってしまうことも多いでしょう。そんなときに社外取締役が「その発言は経営者としての発言ではなく、大株主としての発言ですよね」とくぎを刺すだけでも、企業のコーポレートガバナンス的には大きく改善することと思われます。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.